歩調を合わせて

□お返し不要
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「はいっ、プレゼント!」
「いらない」

素早く拒否すると、秋が表情を曇らせた。

「ホワイトデーのお返しなんだけど」
「うん、わかってる」
「先月、とっても美味しいチョコレートを頂いた感謝の気持ちなんだけど」
「気持ちだけで充分です」
「形にしないと伝わらない事もあるだろう?」
「コレに関しては、伝わってるのでお気遣いなく」
「それじゃあ、僕の気が収まらないんだよ」

ずずい、と差し出したのは、綺麗にラッピングされた箱。
お店で買ってきたようにも見えて、少し興味が湧く。

「これ、中身は何?」
「それは開けてのお楽しみ」
「食べ物なの?」
「それも開けてのお楽しみ♪」

…食べ物らしい。

「これ、作ったの?」
「うん?これはザギが作った」
「ありがとう、いただきます」

ひょい、と箱を受け取ると、秋が呆気にとられたように固まった。

「何だよ、そんなにザギが良いわけ?」
「食べ物に関しては、座木さんが圧倒的勝利だもん」
「食べ物だなんて、言った覚えはないケド」
「え、違うの?」

喋りながらも、既に箱を開封にかかっていた私の手が止まる。
きょとん、と秋を見やると、良いから開けなよ、というように顎をしゃくられた。

「…何、これ」
「今日はキャンディをプレゼントする日なのです」
「飴、なの?」

蓋を開けると溢れんばかりの、秋曰くキャンディが顔を出した。
とにかくカラフルで、大きさもバラバラで、とても既製品ではお目にかかれそうにないものばかりだ。
お菓子というより、玩具やガラスと言った方が信じてもらえると思う。

「こんな大きいの、よく作るよね」
「ぺろぺろキャンディって知らないの?あれって、おっきい方が嬉しいじゃない」

握り拳ほどもあるような塊を取り上げると、中に何か浮かんでいるのに気付いた。
よく見ると、菊のような花である。

「これ、すごい!お花が浮かんでる!!」

思わず歓声を上げると、秋が得意そうにふふ、と笑った。

「中国のお茶にあるでしょ、お湯を注ぐと花が開くヤツ。あのイメージなんだよね」
「へぇ。これって美味しいの?」
「味覚ってのは人それぞれだから、僕には何とも言えないよ」
「…そーですか」

幸いか不幸か、決して食欲はそそられないので、自分の感覚を信じる事にしよう。
いくつかの大きなものには、各々花が浮かんでいて、ひとつひとつ種類も違うようだった。
秋が作ったモノは、あくまで観賞用、というコトなんだと思う。

「ありがと。可愛いから、ウチで飾るよ」
「見飽きたら、ちゃんと食べてね」
「う〜ん、それはそのとき、また考える」

私の答えに満足したのか、柔らかそうな猫っ毛を揺らして、秋が頷いた。

「ねぇ、そういえば座木さんが作ったのって、どれのこと?」

見た感じでは、全部秋が作ったように思える。
箱の蓋を閉じながら尋ねると、一瞬きょとん、とした秋が私の手元を指差した。

「だから、コレ」
「コレってどれよ」
「この箱、組み立てさせたんだけど」

…あー、そういうことか。
いや、うすうす予感はしてたんだけどさ。

ちら、と秋を見ると、してやったり、と言うように胸を張る彼と目が合ってしまった。
やっぱり、ちょっと負けた気分だ。


---FIN.
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