歩調を合わせて

□流れる雲のように
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「ここ、ビルになっちゃったんだ…」

狭い路地を抜けると、そこだけ四角く切り抜いたような空き地があるハズだった。
しかし、久々に訪れた先には、穴を埋めるようなビルが建っている。

「そうだね。いつの間に」

隣を歩く座木が、呆けたような声で呟く。

「座木も知らなかった?」
「ここは普段、通らないから」

眉を下げて苦笑する姿からは、どこか諦めに似た感情を感じてしまった。
気のせいだと思いたくて、わざと明るい声を出す。

「ここから見る空、好きだったんだけどな」
「空?」
「うん。四角くて、向こう側だけ別の世界みたいに見えて」

私の言葉を受けた座木が、今はもう見えなくなってしまった空を透かす。
私より長身の彼が上を向くと、きっとその視界から私は完全に消えるのだろう。
何故か、そんなことがふいに頭をよぎってしまった。
慌てて首を振って、妙な考えを振り払おうとしていると、座木が不思議そうにこちらを向く。

「どうかした?」
「うぅん、何でもないっ」

勢いよく振り過ぎて、ぼさぼさになった髪を手櫛で整える。

「時間はどんどん進んでいくね」

ぽつり、と呟かれた言葉は、ひどく切なく響いて、思わず座木の腕を掴んだ。

「私は変わらないからっ」

驚いたように目を見開いた座木と目が合う。
じっと見つめていると、やがて彼が、ふ、と力を抜いた。

「変わっていますよ」
「え、嘘。変わってないって」
「出会った頃より、ずっと綺麗になりました」

今度は、こっちが驚く番だった。
でも言われてみれば、昨日今日の仲ではないのだから、全く変わっていないと言われても困る事に気付く。
彼と出会ってから今までは、年齢的に、成長期ど真ん中希望だ。

「え、いや、ありがと」
「思ったままを言っただけですから」
「でも、座木のことは、ずっと好き」

掴んだ腕に、力を込める。
彼は台詞の意味を確かめるように、ゆっくりと瞬きしてから、ふわりと微笑んだ。

「私も、ずっと好きだと思っているよ」

柔らかな声に、へへ、と笑いながらも、そっと思う。
彼のことは確かにずっと好きだけれど、その“好き”の意味は出会った頃とは違う。
確かに、人は変わっていくのだ。

外見が出会った頃と全く変わらない彼は、想いもずっと、変わらないんだろうか。


---Fin.
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