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□in a Dragstore
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「あー、酔い止め〜酔い止め〜」

ふいに棚の向こうから、まだ声変わりを終えていない少年の声がした。
このドラッグストアは、駅から近い。
そのため、学校や会社帰りに立ち寄る人が多く、閉店時間ギリギリまで客足が絶えなかった。

「いらっしゃいマセ」

営業スマイルを貼り付けて、顔を出した先には、小学校高学年くらいの少年の姿。
不意打ちだったのか、きょとん、とした顔で目を瞬いている。

「何かお探しでしたら、お手伝いしましょうか?」

心持ち、ゆっくりと喋ってみる。
1人で買い物に来るには、少々時間が遅い気もするが。

「あー、えっと、酔い止めが欲しいねん、ですけど」

少年が、我に返ったように話す。
立派な関西訛りは、隠すつもりもないらしかった。
目的の棚に案内して、各々の解説をする。
説明のひとつひとつに頷く様子を見ながら、この子は聞き上手だな、とぼんやり思った。

「ほんなら、これにするわ。ありがとー…えと、ひ、とうさん?」
「どういたしまして。ちなみに僕の名前は、かふゆ、です」
「へぇ…ありがたそうな名前やね」
「どうして?」

人懐っこく目を細めて、肩をすくめる少年は、どこか嬉しそうで。

「だって、寒い冬に、あったかい火があったら、めっちゃ感激やんか」
「ふむ、そりゃそうだ」

ふふ、と笑うと、唐突に少年が胸を逸らした。

「ついでに言うと、俺の名前にも、火って入っとんねん」
「ふーん、そうなんだ」

にこにこと、期待の眼差しで見上げてくる。
自分は身長が高い方ではないのだが、少年はさらに背が低かったので、自然と上目遣いになるのだ。

「何て名前なんか、聞いてくれへんの?」
「何て名前なんでショウ?」

へな、と眉を寄せる様を見て、頬が緩みかけるのを誤魔化すために、早口で繰り返す。
すると少年が、ぱっと顔を輝かせた。

「澄んだ火と書いて、ヒズミ」

跳ねた髪を、ふわり、と揺らして踵を返すと、そのままレジに向かう。
棚の向こうから、会計係を元気良く呼び出す声が聞こえてきた。

「ひとうさん、か」

自分の胸にある、名札を見下ろして呟く。
下を向くと、伸びた前髪が淡く影を落とした。

「それも悪くないかもな」

くす、と小さく笑うと、表に出ているセール品を片付けに向かう。
今日の営業時間は、あとわずかだった。


---Fin.20070419/KAFUYU×HIZUMI 〜in a Dragstore〜
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