Thanks a lot

□春の嵐
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「おはよう、零一っ」

まだ空気の冷たい、朝一番。
玄関先に待ち構えていた突然の訪問者を見て、零一は絶句した。

「これからバイトでしょ?早いね」
「あ、あぁ…今日は早番だからな」
「ふふ、知ってるよ」

可笑しそうに首をすくめる彼女は、前回来たときにカレンダーを見た、と早口で説明した。
…いや、今日はずっと、早口だ。

「寒いのか?」

無意識に眉をひそめた零一に気付いて、ぱちぱちと目を瞬く。

「そんなことないよ?」
「そうか。なら悪いけど、俺これから」
「うん、知ってる。だから出掛けちゃう前に言っとかないと、午前中に間に合わないと思って」

何のことだ。

「あのさ、零一」
「あぁ」
「あー……」

大袈裟なほどに、目が泳いでいる。
零一が黙って待っていると、やがて何かを決意したように睨まれた。
怯むような迫力は、全くなかったが。

「何だ?」

話を促した瞬間、ふいっと背中を向けられる。

「零一なんて、大っっっ嫌い!!」
「…は?」

言うが早いか、あっという間に走り去られて、思わず伸ばした手が宙をかいた。
何かしただろうか、と最近の自分を振り返ってみても、特に思い当たる節は見当たらない。
…というか、そもそも。

「あれは、大嫌いって顔じゃないだろ…」

怒っていた様子もなかったのに、耳まで赤くしているのが見えていた。
本気で縁を切りたい訳でもないのなら、朝からわざわざ、何のために来たんだろうか。
軽い頭痛を感じて大きく息を吐くと、ざぁ、と風が木々を揺らす音が聞こえる。
慌てて戸締りをして、若干余裕のなくなったバイト先への道を急いだ。





「おはようございます、桜庭さん!あ、傘持ってきました?今日は雪だそうですよ!」
「げ、そうなのか?」
「あはは、やだなぁ、今日は4月1日です」
「…あ」



20071221/RyonaFumi/DreamNovel with 01 -April fool-
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