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□聖夜道
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「メリークリスマス!」

関係者専用扉からターゲットが出てきた瞬間、声を上げる。
中途半端に開いた状態で、扉がぴたりと動かなくなった。
…やばい。この人、面白すぎる。

「口、開いてるよ」
「な、何でお前…」

口をぱくぱくさせて、標的コト零一がようやく声を発した。

「そりゃあ、迎えに来たに決まってるじゃない」
「今、何時だと思ってるんだ?」
「え?まぁ夜は深まり、いよいよ寒さが増して参りましたが、如何お過ごしで「あーはいはい」

手紙の前文じみた文句を言うと、呆れたような声で遮られた。
がしがし、と後ろ頭を掻きながら扉を閉めて歩き出す。

「あれ?零一の家、そっちじゃないでしょ?」

きょとん、と訪ねると、彼が面倒臭そうに振り向いた。

「俺じゃなくてお前んちだよ。ほら、帰るぞ」

くるり、と背を向けられて、送ってくれるんだと気付く。
疲れているだろうから、家に押し掛けるより職場に行った方が負担もないと思ったんだけど。
逆に手間を掛けてしまうようで、申し訳なくなる。

「零一、はい」
「何だ?」
「だから、メリーなクリスマス」
「…俺、何も用意してないぞ?」
「別に良いよ。ただ、これを渡しに来ただけだから」

開けていいか?と聞かれて頷くと、簡素な包みはすぐに開いた。
中身は、ホントに今日、ぎりぎりで編み上げたマフラー。
零一が静かに目を見開く。

「…どーも」
「いーえ」

ふふ、と笑みが零れる。
考えるような間があって、おもむろに零一が、首から自分のマフラーを外した。
そのまま私の肩に、彼のマフラーを引っ掛ける。

「やる」
「…は?」
「俺には、こっちがあるからな」

くるり、と新たに巻いたマフラーに、口元を埋めて視線を逸らす。
こんな時、彼は大抵、顔を赤くしたりしているから、今が夜だという事が、とても残念だと思った。
ありがたく巻いた零一のマフラーは、まだほっこりと温かい。

「ありがとー」
「こちらこそ」

言葉少なに歩く道には、足跡の代わりに真っ白な吐息が残る。
やがて2人分の純白が、音もなく吸い込まれていく、聖なる夜道。


〜メリクリ♪〜



―――Fin.Thank you for Reading!!
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