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□時間を頂戴?
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「げ。ドタキャンって…」

約束の相手から謝罪の電話が入ったときには、私は既にチケット売り場の前まで来ていた。
ビルの中にある、屋内遊園地。
1度来てみたいと思ってたから今日は、うきうきしていたのに。
カップルの多いココに1人で入る度胸はさすがになくて、友人を恨めしく思いながら、携帯をしまった。

「…どうしよっかなぁ」

ベンチに座って、天井を見上げる。
頭上に広がるのが空じゃない事が、何だか寂しかった。

「お姉さん、フラれちゃったの?」
「…え?」

ふいに覗き込まれて、慌てて身体を起こす。
目の前に立っていたのは、色素の薄い男の子。
“お姉さん”なんて言うけど、きっとそんなに年は変わらないだろう。
咄嗟に言葉が出てこないでいると、彼が人懐っこく、にこりと笑った。

「今、約束をドタキャンされたんでしょ?て事は今日、1人?」
「まぁ、そうですけど…」
「僕、今日が誕生日なんだ」

初対面の相手に、いきなり何を言ってるんだろう。

「それはおめでとうございます」
「へへ、アリガト」

棒読みの祝辞に、やたら綺麗に笑って返してくる。
いくつになったのかな、と頭の片隅で思った。

「でね、誕生日プレゼントってことで、お姉さんの時間を少しくれない?」
「…は?」
「ココ、カップルで入った方がお得なんだよね」

ひょい、と指差した先は、例の屋内遊園地。
そういえば男女のペアでパスポートを買うと、若干割引になるとかいう話だった。
道理で朝から、カップルが多い訳だ。

「この中に、行きたいお店があってね。僕もホントは友達と来る予定だったんだけど、キャンセルされちゃって」

苦笑する彼を見ていて、合点がいった。
そういうことか。

「お仲間なのね」
「そーいうコトです」
「まぁ、困ったときはお互い様って言うし?」

ひょい、と立ち上がると、ひとつ笑ってみせる。
彼のように、人懐っこく見えていれば良いけれど。

「助け合いましょうか」
「商談成立?」

右手を差し出されて、少し戸惑ったけれど握手を交わす。
けれどその手は、すぐに離され、彼はチケット売り場に向かって歩き出した。
慌てて歩調を合わせながら、顔を覗き込む。

「何なら、今日1日付き合ってあげても良いけど?」
「へぇ、最初は不信感丸出しだったクセに?」

意地悪く目を細めて、彼が笑う。

「だって、今日は誕生日なんでしょう?特別な日じゃない」

でもその前に、お互い自己紹介から始めないと。
ねぇ、そうでしょう?


―――Fin.Thank you for Reading!!
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