Thanks a lot

□雪ダルマたち
1ページ/2ページ

今年は暖冬だとかで、雪がほとんど降っていない。
だからという訳でもないんだけど、帰り道に、うっすらと積もった雪を見付けたら思わず、はしゃいだ声が出てしまった。
昼間の雨が雪に変わったときは、まさか積もると思わなかったから、喜びもひとしおだ。
とは言っても、雪合戦できる量にも満たないんだけどね。

さくさく、と雪に足跡を付けて歩いていると、ふと道の脇に、ごろりとした雪玉があった。
立ち止まって辺りを見回しても、誰もいない。

「よし」

よいしょ、としゃがみ込むと、いそいそと雪玉を作る。
こんな日に限って、手袋を忘れたのが痛手だけど、まぁ仕方ない。
真ん丸く作るのは意外に難しくて、随分と時間が掛かってしまった。

「こんなもんかなー」

2つの雪玉を重ねて、目になる所に石ころをくっ付ければ、小さな雪ダルマの完成だ。
知らない誰かとの合作。
何だか、ちょっと楽しい。

「お前、不器用だなぁ」

失礼な呟きと共に、ふいに人影が頭上から覗き込んできた。
振り返らなくても分かる、その声。

「あーさーづーき〜ぃ、失礼な事言ってんじゃないよー」
「あ?悪ぃ、心の声が聞こえたか?」
「余計に悪いっ」

むぅと睨みつけても全く悪びれずに、いしし、と笑いながら隣にしゃがむ。
街灯の光を反射するメガネが、ひどく冷たそうに見えた。

「こーいうのはさ、コツがあるんだよな」
「コツ〜ぅ?」

見てろ、と得意気に雪玉を作り出す。
何だか、おにぎりを作らせたら上手そうだな、という手つきで、あっさりと雪を丸めて見せた。

「ちょっと楕円じゃない?」
「ワザとに決まってんだろーが」

首だけ振り返って、手頃な石を拾うと、ぺたぺたと雪玉に付ける。

「…これ、ひよこ?」
「何でだよ」
「この前、浅月が持ってたひよこに似てる」

ふっと私が吹き出すと、浅月はがっくりと肩を落とした。
ひとしきり笑って立ち上がったら、足がしびれて、少しふらつく。
…しまった、長居しすぎた。

「おぉ、そろそろ帰るか」
「うん。立ったら急に、寒くなってきちゃった」

はぁ、と手に息を吹きかけると、すっかり冷たくなった手が湿る。
感覚を取り戻そうと、少しずつ指を動かしていたら、勢いよく手を握られた。

「うわ、お前、めちゃくちゃ冷たいじゃねぇか」
「あはは、手袋忘れましたー」
「はぁ?だったら雪、触んなよ」
「そんな大人になんて、なりたくないよ!」
「ピーターパンシンドロームか、それ」

手袋を外した浅月の手から、じんじんと体温が伝わってくる。
こんなことをしていたら、彼の方が冷えてしまうんじゃないか、と思いながらも、それを言葉にはできなかった。
ふざける声が震えるのは、寒さのせいか、それとも。

「まぁ、そこの角くらいまでなら、俺の体温を分けてやろう」
「近っ」
「文句言うなら、手ェ離すぞ」
「…ありがとうございます」

ほんの十数メートル。
寄り添うように並ぶ雪ダルマたちのように。
小さな子どものように、手を繋いだまま歩く距離。

きっと彼に他意はなくて、ただ、この手と同じに大きく、温かいだけで。
その証拠に、約束の角まで来ると、あっさりと離した手を振って、いつものように笑顔を見せた。
ぎこちなく振り返した手を握り締める。

この温もりは、1人ぼっちじゃなくなった雪ダルマからの、ささやかな恩返しなのかな。


―――Fin.Thank you for Reading!!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ