Thanks a lot

□好みのまま
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春になると、ぱっと気分を変えたくなる。
手っ取り早い方法としては、髪を切る事を思い付いた。
いっそショートにしようかな、と自分の前髪をつまんで考えていたら、鮮やかな赤毛が目の前に座った。

「おはよ、総和」
「おはよう。前髪、伸びたわねぇ。伸ばすの?」
「うーん、切っちゃおうかなーって思ってたトコ」

大学の階段教室で前後に座ると、いつも見上げている相手を見下ろす事が出来て、ちょっと楽しくなる。
いい加減、新入生じゃないんだけど、思わずちょっかいを出したくなる気持ちだけは、変わらないのだ。

「ねぇねぇ、特に深い意味はないんだけどさ」
「なーに?」

妙な前置きに、総和が不思議そうに振り返る。

「総和はどんな髪型が好き?」
「…それは、相手に対して、よね?」
「うん、そりゃあね」

どうせ、似合ってれば何でも〜なんて常套句を使ってくるんだろうけど。
しかし予想に反して総和は、ふむ、とひとつ頷くと

「ポニーテールかショートカット、かしらね」

即答だった。

「…は」
「やぁだ、何その、うっすいリアクション。言ってるこっちが恥ずかしいじゃないの」
「いや、即答だね」
「ふふ、まぁね〜」

にこにこと笑う彼を見ていたら、ふいに、さっき考えていた事を思い出した。
…これで、私がポニーかショートにしてきたら、何かバカみたいじゃないか?

「あのさー」
「何かしら」
「今のを聞いたからって訳じゃないんだけど…」

きょとん、と見上げてくる総和から、さりげなく視線を外す。
だって、もう決めてたんだから、ココで言っておかなくちゃ。

「私今度、髪切ってショートにしようかなーって思ってたんだよねー」
「……」
「…いや、総和に聞く前から考えてて。あれ、そしたら何で聞いちゃったんだろ?てか聞かなきゃ良かったんだけど、ちょっとした好奇心で、ホントに今のは関係なくて…っ」
「……」

慌ててまくし立てたのに反応がないので、ちら、と見下ろすと、いつの間にか総和は前に向き直っていた。

「ちょっと、総和?」
「…ふ、ごめんなさい…ふふ」

よく見ると、下を向いた彼の肩が震えている。
…笑っているのだ。
むっとして、手元にあった教科書(結構重い)で頭を叩くと、かすれた声で、痛い、と言った。

「全然痛そうじゃないから」
「痛いに決まってるじゃない!やだ、よりによって、それで叩いたの?」
「重いから、手伸ばすの大変なんだよ?」
「じゃあ、やらなきゃ良いじゃないの〜」

振り向いた彼が、教科書から私に視線を移した。
ぱち、と目が合うと意味ありげに、にやり、と笑う。

「うん、良いんじゃない?」
「…何が」
「ショートカット、似合うと思うわよ」

うふふ、と満足気に笑って、前に向き直る。
講義の間、彼の椅子を蹴る度、総和は肩を震わせていたのだった。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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