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□独占欲
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「火澄くん、何かあったの?」

午後の休み時間。
急に難しい顔をして、殆ど喋らなくなった火澄くんに、やっとの思いで聞いてみた。
それなのに、本人はきょとん、と首をかしげてくる。

「へ?別に何もあらへんけど」
「じゃあ、何でずっと黙ってるんだ?」
「俺が黙ってたらおかしいんかいな」
「あぁ、おかしいな」

鳴海くんに即答されて、火澄くんが頬を膨らませる。

「別に何でもえーやんけ。俺かて、悩みくらいあんねん」
「別に良いけどな。そう露骨に変な顔されると、こっちも気になるんだよ」
「何か気になってるなら、今ここで言っちゃいなよ」

私達で支障がなければ、と付け足すと彼は、そやなぁ…と目を泳がせる。

「まぁ、例えば、の話やねんけどな」

慎重な前置きに、私と鳴海くんが揃って頷いた。

「バレンタインでは、本命からしか貰わへん、とか言うやん。あれ、ホワイトデーはどうなんやろな」

…突然、何の話だ?

「ホワイトデーは、バレンタインのお返しって意味合いなんだから、本命にしかあげてないんじゃないのか?」
「ちゃうねん。最近は義理チョコも真っ青な、友チョコってのがあるらしいで」
「へぇ」
「…それは、女の子同士で交換するヤツのことね」

別に、貴方は友達、と宣言するチョコレートではない。

「あれ、そうなん?」
「そんな面倒なモノ、あったらたまんないよ」
「で、それがどうかしたのか」

鳴海くんが覗き込むような視線を送ると、火澄くんが、ぐ、と詰まった。

「いや、今日ホワイトデーやんか。それでちょっと思ただけ…」
「俺がさっき、“お返し”渡すのを見て思った、んだろ?」

火澄くんが、じわり、と1歩後ずさる。
鳴海くんは律儀だから、私みたいに義理で渡しただけの相手にも、きちんとお返しをくれていた。
…まぁ、わからなくもない気持ちだけど。
黙ってしまった彼を見ていたら、むくむくと軽い悪戯心が湧いてきた。

「自分以外の人から、受け取って欲しくなかった、とか?」
「何言っとんの。俺、そこまで心狭ないで」

彼が、むぅ、と口を尖らせてそっぽを向く。
その口調と仕種は、全力で私の台詞を肯定しているように見えてしまった。
あんまりストレートだと、反応に困るんだけど。

「まったく、独占欲の強い人だこと」
「だからちゃうって!もう、歩も何か言ってーな」
「まったく、独占欲の強い奴だな」
「…っ!」

かあっ、と彼の顔が赤くなる。
鳴海くんと顔を見合わせると、どちらともなく吹き出した。

「で、お相手は誰なの?2人にチョコ渡した人でしょ?」
「そんなの、そう何人もいないと思うがな」

「あーーーっもう!黙り歩!!ぜっっったい内緒やからな!!!」

どすどす、と足音を立てながら席に戻る火澄くんを、元々席の近い私と鳴海くんが見送る。
派手に椅子を鳴らして、彼が席に着いたのを見届けると、何気ない風で鳴海くんに向き直った。

「でさ」
「?」
「具体的には、何人くらいいる訳?」

私のライバル候補は。

しかし彼は火澄くんの方を、ちら、と見やって薄く笑うと、こう言ったのだ。

「絶対内緒、だそうだ」

…こんな事なら、火澄くんが私以外の誰に“お返し”を渡しているのか、しっかりチェックしておくんだった。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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