Thanks a lot

□一口だけ
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ぴかぴかの青空は日差しが眩しくて、ちょっと暑いくらいだった。
駅前をてくてくと歩いていると、聞き慣れた声に呼び止められて振り返る。

「はろぅ。こんな所で会うなんて、奇遇だね」
「あれ、カノン。何やってんの?」
「見ての通り、ジュースを飲もうと思ってるんだけどさ」

なかなか決まらないんだよねぇ、とのんびり笑う。
最近の流行らしいジューススタンドには、いかにも100%の濃いジュースが並んでいた。

「美味しそうだねー。私も飲もうかなぁ」
「ホントかい?じゃあ一緒に飲んでいこうよ」
「うん。1人じゃ味気ないもんね」

私がメニューに向かうと、カノンがぱっと表情を明るくする。
ジューススタンドは日陰になっていて、風が涼しかった。

「じゃあ、私コレにする」
「え、もう決めたの?」
「店長オススメを信じてみる。悩み出したらキリないし」

自慢じゃないけど、こういうときの私は相当、優柔不断だ。
悩み出したら止まらない自覚があるから、出来るだけ悩まない事にしている。

「ふーむ。じゃあ、僕はコレにしようかな」
「あ、それも美味しそうだよね〜」
「でしょ?じゃ、コレとコレ、お願いします」

決まってしまえば、カノンの行動は早い。
あっという間に注文して、さっさと会計まで済ませてしまった。

「はい。今日は僕のおごりです」
「え、良いって。払うよ」
「良いから。その代わりと言っちゃ何だけど」

ふいに、彼が人懐っこく顔を寄せてきた。
深いグリーンの瞳で覗き込まれると、どぎまぎしてしまう。

「な、何?」
「そっちも、ちょっと味見させてくれる?」

悪戯っぽく小声で囁く。
何を言われるかとヒヤヒヤしていたから、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「もちろん、どうぞ」
「あ、でも先に飲んで良いよ」

そういうと、自分の分のストローをくわえる。

「んー、甘〜」

幸せそうに目を細める彼を見て、私もありがたく頂くことにした。
濃いジュースは、何だかおやつを食べているような気分になる。

「美味しー。ありがと、カノン」

私がストローから口を離した隙に、素早くカノンが一口。
やっぱり美味しい、と頷く彼を見ると、美味しさが増したような気がした。
思わずこみ上げた笑いを噛み殺すように、もう一口含む。

「やだ、ちょっと位は動揺してよ」
「ん、何に?」
「間接キスだよ、それ」

あまりにさらりと言われたので、咄嗟に意味が理解できなかった。

「な…っ」
「僕以外とは、絶対やんないでよね」

慌てて顔を上げると、心なしか拗ねたようにストローをくわえている。

「や、やる訳ないでしょ…っ!?」

てゆーか、何だ?“僕以外”って、自分は特別みたいな言い方!
上手く言葉にならないツッコミに、口をぱくぱくさせていたら、カノンが満足気に笑う。
陽に透ける茶髪が、柔らかく、さらりと揺れていた。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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