歩調を合わせて

□over write
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「よくさ、女はたくましいって言うじゃない」
「あー、聞くねぇ」
私の肯定に満足気に笑って、秋くんが続ける。
「したたかだとか、立ち直りが早いとか」
「秋くん、全世界の女子を敵に回したいの?」
じと、と見やると、まっさか、と首を振った。
「そんな恐ろしいこと、しないって」
「じゃあ、何」
「この前、何かで見たんだけどさ」
「うん」
ふと見ると、いつの間にか彼の表情が、悪戯っぽく変わっている。いや、悪戯っぽくというより、艶っぽく、というか。
とにかく何か、ヤな予感?

「女の子は、恋は上書きってホント?」
「は?」
それは、新しい恋をすれば、過去は引きずらないという意味だろうか。
「…それは、人それぞれじゃないの?」
「そりゃそうだけど」
一般論とかさ、女の子の目で見てってのはないの?と重ねられて、うぅ、と詰まる。
自分のことや、周りの友達の話なんかを思い出して、大雑把に統計を取ってみた。
「うーん、そうかも」
「そうっていうのは、上書き肯定?」
「うん。上書きだね」
色々ツッコまれても面倒なので、はっきり頷く。秋くんは、ふーん、と通りの人々に目を移した。
「何?上書きしたい相手でもいるの?」
そういえば秋くん自身の色恋話って聞いたことないな、と気付き、思わず身体を乗り出す。すると彼が、ちらりとこちらに目をやって、おもむろに顔を明るくした。
…うわ、何か思いついたよ、この人。

「じゃあせっかくだから、僕が上書きしてあげよっか」
「…何を」
「決まってるじゃないか」

ゼロイチ。

にやり、とその名を囁くと同時に、物凄い力で引き寄せられた。

ぐい。

掴まれた左腕は、その場に凍り付いたかのように、ぴくりとも動かせない。
すぅ、と血の気が引いていく感覚があった。多分、左腕は今、物凄く冷たいと思う。
「どしたの?顔色が悪くなってる」
何でもないように、けろりと尋ねる声に、あんたのせいだと言い返したい。
なのに、喉に空気の塊が詰まったような、妙な圧迫感があって、声が出ない。
人の気も知らないで、全ての元凶である秋くんが心配そうな表情を近付けてきた。

…限界。

「…ぁ、」
「何やってんだ」

掠れた音が私の口から漏れるのに重なって、秋くんの後ろから低い声が聞こえた。
途端に、秋くんがむぅ、と眉間に皺を寄せる。
「秋」
名前を呼ばれて、離れてくれるかと思ったら、に、と口端を引く。
ひゃ、と私が声を出すのと、秋くんがうわ、と叫ぶのがほぼ同時だった。

…うわ?
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