歩調を合わせて
□Let's HALLOWEEN!
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後は秋くんの訪問を待つばかり、となったとき。
改めて私の格好を眺めていた零一が、ふいに呟いた。
「やっぱ、お前はやんな」
「えーっ!?何でさ!」
「そんなの、秋なんかに見せなくていい」
「私は見せたいっ!」
零一の口調が珍しくキツかったので、余計に意地になってくる。
「何で急に反対すんの!?理由を言ってみなよ!」
「っ…いいからそれ、他の奴に見られんな!」
何だそれ。
そんなにヒドイ格好はしてないと思うけど。
ショックで思わず黙ってしまい、言い返す言葉を探していると、タイミングよく玄関のチャイム。
ぴんぽーん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん「るせー!!」
零一が堪らず叫んだ。
「とにかくお前は出てくんなよ。俺のでいいから、適当に上から着てろ!」
その剣幕に、思わず頷いてしまう。
くそぅ、一体何だっていうのさ。
「「trick or treat?」」
零一と秋くんの、やたらと発音の良い挨拶が聞こえる。
次の言葉が聞こえないところをみると、零一の包帯男は成功かな?
そんな事を思いながら、私は零一のセーターを拝借していた。
うっかりとはいえ、頷いちゃったものは仕方ない。
「―――!!」
「あれぇ、来てたの?」
ちょうど私がワンピの上にセーターを被った瞬間、零一の叫びをBGMにしながら、秋くんが部屋に入ってきた。
背後で零一が何故か、ほっとした表情をする。
「うん。お先にお邪魔してるよ」
「そっか。お化粧してるなんて、珍しいじゃない」
「一応、いつもしてるんだけど」
「あれ、そうだったっけ。もしかして、仮装もしてるの?」
「もちろん!ばんぱいあ〜です。秋くんのそれは…魔女?」
「僕は男なんで、魔法使い、と言って欲しいんだけどなぁ」
「あはは、そうだね〜」
ぷぅ、と頬を膨らませている秋くんの髪を、後ろから零一がかき回した。
「あれやるから、秋はとっとと帰れ」
「何だよゼロイチ、お邪魔虫扱いしないでよね」
「オメェが邪魔じゃなかったことなんてねぇよ」
「ひどーい」
口をとがらせながらも、秋くんは楽しそうに、いそいそとラムネを“魔法使い”のローブにしまった。
ぱっと見では分からないけど、ポケットがあるらしい。
「これは可愛いバンパイアさんの分ね」
ひとつかみのラムネを残して、秋くんがにっこりと笑う。
「ありがと〜、魔法使いさんっ」
「どういたしまして。良かったら、後でウチにも来るといいよ。リベザルとユノがハロウィンやってるから、ザギも何か作ってるだろーし」
「わ、ホントに?」
「でもその時は、全身仮装必須だからね」
ぴ、と指を指されて、自分の仮装を零一のセーターで隠していた事を思い出す。
「いいから、早く帰れ!」
「はいはい。じゃあ、またね」
「うん、ばいば〜い」
零一の剣幕に苦笑しながら帰っていく彼に手を振る。
扉が閉まると同時に、零一が深い溜め息をついた。
「で?お前はどうすんだ」
「ん、何が?」
「薬屋、行くのか?」
「行きたいけど…さっきの理由を聞いてから考える」
さっき?と彼が首をかしげる。
忘れたとは、言わせない。
「いいから他の奴に、それを見られんな」
問題の台詞を棒読みで繰り返してやると、零一の顔が、みるみる赤くなった。
「ちゃんとした格好していかないと、お菓子をねだる身としては失礼ですから」
「あー、あれはなぁ」
「あれは?」
「とにかく、俺が嫌なんだよ」
吐き捨てるような台詞。
その怒ったような顔を見ていて、急に彼の気持ちが分かった気がした。
「…いわゆる、独占欲?」
「悪いかよ」
認めたよ、この人は。
そんな事言われちゃった日には、私はどうすればいい?
「…わかった」
「何が」
「今日は秋くんち、行かない」
「良いのか?」
「もともと、今日は1日零一の家にいるつもりだったし」
まさか、彼がお菓子を用意しているなんて、思いもしなかったから。
「零一の内職を邪魔して、ひたすら遊んでもらうつもりだったの。私の悪戯計画」
小さな声で白状すると、零一が吹き出した。
「お前、平和に生きてるな」
「どういたしまして〜。何よー笑わなくてもいいじゃない」
「俺、お前がいるときに内職とか、したことないだろ」
あれ、そういえば。
いつも私が来ると必ず手を休めてくれていたっけ。
なーんだ。
じゃあ、そんなの悪戯にならないじゃない。
「どっちにしたって、お前はもう、お菓子食べてたしな」
律儀な彼が、どこか幸せそうに笑った。
そうだよ。いつだって私は、彼には敵わない。