歩調を合わせて

□waiting fou you:after
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「そんな寂しいこと言わないでくれる〜?嫌い嫌いも好きのうちって言うじゃないの」
「あぁ、なるほど。総和、良い事言うねぇ」

ふふ、と笑い合っていると、総和の肩に手を掛けて、直也が隣に座った。

「ちょっと総和、秋と虎徹に何言ったの?」
「何って、女の子巻き込んでじゃれ合うんじゃないわよって言ったくらいかしら」
「あぁ、それで」

納得したように、手に持っていたアルコールに口を付ける直也に目で問い掛ける。
彼は一口飲むと、すぐに缶から口を離した。

「ん、あの2人、急に部屋の隅に移動したからさ。でも何か、虎徹が勝負を挑んでるみたいだったなぁ」
「勝負って、何の?」
「さぁ?これから決めるんじゃない?」
「へぇ、面白そうじゃない!見に行ってやらないとね」

恐らく火種を巻いた張本人であろう総和は、嬉しそうに期待の眼差しを部屋の隅に向ける。
思わず直也と顔を見合わせると、ふいに彼の手にある缶が目に入った。

「ねー直也、それ美味しい?」
「うん?そうだね。結構甘いから、好きかもよ?」

彼は私が甘いお酒ばかり飲むのを、しっかり知っているらしい。

「へぇ、ちょっとちょうだーい」
「あっちに新しいのあったから、取ってこようか」
「うぅん、面倒臭いから良いよ。直也の1口!」

別に1缶も欲しい訳ではなかったので、軽い気持ちでねだったのだが、何故か直也はちら、と虎徹たちの方に目をやった。

「ま、良いか。いいよ、どうぞ」
「?ありがとー」

もうあまり冷たくない缶の中身は、少し甘ったるいくらいだった。
キン、と冷たければちょうど良い甘さなんだと思う。

「うん、美味しい。ありがと直也」
「もう良いの?」

缶を差し出しながら頷くと、総和が「あ」と声を上げた。

「こら木鈴っ、お前も来い!」
「わ、虎徹!?何だよ急に」
「よーし、直也が来るなら、負けないからね!」
「深山木、お前は俺を馬鹿にしてんのか?」
「してないよー?ただ僕は、打倒直也を」

引きずられるように仲間に入れられる直也を見送って、ふと缶を返し損ねたことに気付く。

「まったく、騒がしい連中よね」
「総和は混ざんないの?」
「んー、そうねぇ。参戦する理由はなくもないんだけど」
「あるんだ?」

あの戦いには、理由があるのか。
根本的な部分に驚いている私を、可笑しそうに眺めながら総和は、

「でも今日は、応援に回ろうかしら」

なんてのんびりと言っている。

「さて、誰を応援しようかしらね〜」
「そうだねー。てか、そもそも何の勝負するわけ?」
「さ〜ぁ。ありがちなところで、早飲みでもするんじゃないかしら?」
「ヒネリがないよねぇ」

せっかく手元に残ったので、甘ったるいアルコールをもう一口含む。
部屋が暑く感じるのは、人の熱気か、お酒の力か。

「よし、じゃあ手っ取り早く早飲みだ!」
「えー、そんなの芸がなーい」
「じゃあ秋は何なら良いの?」
「うーん、じゃあねぇ、早飲みした後くるくるっと回って、あっちで新しいのを作って来てそれで」
「そんな面倒なの、却下に決まってるだろ!」
「覚えられないからって、簡単に却下しないで欲しいなぁ」
「だーッ、ふーかーやーまーぎーぃ!」

演目もなかなか決まらないようだし。
そもそも、今日の主役である直也が置いていかれてるのはどうなんだ。

「直也〜。はいコレ忘れ物」
「あ、別に良いのに。ありがと」
「うぅん。もう一口貰っちゃったし」

へへ、と笑って直也の隣に移動すると、虎徹と秋がまた騒ぎ出す。
それを総和が茶化して、直也と笑っているとまた彼が巻き込まれて。
延々と終わりの見えない宴会は、直也の誕生日が終わっても続くのだった。


---Fin.
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