Thanks a lot

□on the street
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街中を1人歩く。
故郷とは、飛び交う言葉も、流れる空気さえも違う街。
ショーウィンドウに映る自分の姿を横目に見て、小さく苦笑が漏れた。

つい最近まで、これで高校の制服を着ていたのだから、おかしな話である。

ふいに視界の端で、ガラスに映った反対側の通りを、栗色の髪が横切るのが見えた。
ふわり、と風を含むその色は、優しかった少年を思い出させる。

「「あ…」」

思わず出た声に、同じ反応がカブって慌てて振り向く。
いつの間にか隣に立っていた黒髪の男性が、こちらを見て目を丸くしていた。
きょとん、とした表情は幼く見えるが、高校生か大学生くらいといったところだろう。
ぱちぱち、と目を瞬いてから、ふいに彼がにこり、と笑う。

「日本の方、ですか?」

耳に穏やかな声は、綺麗な日本語だった。

「えぇ、まぁ。貴方もですか?」
「いえ。私は、生まれは違うんですが…つい最近まで日本にいたもので」

愛おしいものを懐かしむように、目を細める。
大切な人の事を思い出しているのだろうか。
遠く、海の向こうの地にいる少年。
彼の事は、昨日も会っていたかのように思い出せるのに、あの学園生活は遠い過去のようだった。

ふと、先程見掛けた栗色の髪を思い出して、反対側の通りに目を移す。
人通りが少ないにも関わらず、既にその姿は見えなくなっていた。

「さっき、反対側の通りを歩いていた人が、知り合いによく似ていたもので、つい声を出してしまったんです」

隣の彼の声に、はっとする。
眉を下げて笑っているところを見ると、人違いだった、という事か。
その顔を見ていたら、何だか気が抜けてしまった。

「実は、私もなんです。こんなところに、いる訳ないんですけど」

思わず零れた笑みが、自嘲を含んでしまって、慌てて目を伏せる。
そろそろ行こう、と思って顔を上げた先では、彼がふわ、と微笑んでいた。

「大切な方、なんですね」

何を今更。
大切でなければ、あんな仕事、こなせるはずがなかった。

「もちろんですよ」

驚いたような彼の表情を見ると、自分はうまく笑えていないのかもしれなかった。
胸が熱くなる。
彼が何か言おうと、口を開きかけた瞬間、風が鳴った。
今はもう、編んでいない髪が広がる。

「ザーギー?何やってんだよ、そんなトコで」

背後から聞こえた、少し高い少年の声。
拗ねたような口振りから、親しい相手への呼び掛けのようだった。
そしてその相手は。

「あ、すみません。火冬」
「別に良いけど。どーかした?」

目の前の彼の表情が、ぱっと明るくなった。
彼の捜し人は、どうやらすぐ近くにいたらしい。

「じゃあ、私はこれで失礼します」
「あ、はい。では、これで」
「はい。じゃあ」

ぺこ、と小さく会釈する。
この街では見掛けない挨拶に、彼が嬉しそうに会釈を返してくれた。
隣の少年も、セピア色の髪を揺らす。

願わくば、貴方は大切な人と、ずっと一緒にいられますよう。


---Fin. Thanks!20070425/-HIYONO×ZAGI-
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