Thanks a lot

□酒台詞
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「ちょうど、美味しそうなお茶菓子を頂いたんだ。すぐ、お茶を淹れるね」

簡易キッチンに引っ込んだ座木の背中を見て、さっきのお客さんを思い出す。
あんなのは、日常茶飯事なのだけど。
本人に自覚がないんだから、妬いたって仕方ないんだけど。

「ねぇ、座木ー」
「何?」
「あのさぁ…」

思わず口ごもる私を不思議に思ったのか、座木がキッチンから戻ってきた。
慌てて、来なくて良い、と押し戻す。
背中を見て言えない事が、顔を見て言える訳がない。

「どうし「やっぱり、敬語使ってくれて良いよ」

台詞がカブった。
座木が、きょとん、としているのが気配でわかる。

「…それはまた、どうして?」

まだ、敬語ではない。

「さっき、秋くんと話してたんだけどさ。敬語を止めたら、なくなっちゃったんだもん」
「何をなくしたの?」
「アル…」

言いかけて、ふと口をつぐんだ。
“アルコールワード”はからかった命名だから、あまり座木には言うなと釘を刺されていたのである。
私は別に、嫌な言葉だとは思わないんだけど。

「…アルコールワード?秋の言葉でしょう」
「あちゃ、知ってたんだ」

まったく、と息を吐く音がした。
でも、知ってるなら話は早い。

「アルコールワードってのは、敬語に付随するものなんだったら、たまには敬語で話してくれて構わないよ」
「…それは、つまり?」

珍しく、彼が困惑している。
お茶の良い匂いがしてくるのを感じて、座木が出てくる前に、一息で言ってやろうと思った。

「私にも言って欲しいです、アルコールワード!ダメでしょうか!」


――がちゃっ


「わ!」
「え、ちょっと大丈夫!?」

派手な音がして、キッチンに駆け込むと、座木が焦って零したらしいお湯を拭いていた。

「あぁ、大丈夫だから。危ないよ」
「良いって。座木、平気だった?」

幸いにも、座木自身は全く濡れておらず、ほっと力が抜ける。
お湯をたっぷり吸った布巾を絞りながら、座木が目を合わせずに口を開いた。

「えっと、そもそもアレは敬語に付随しているとか、そういう訳じゃなくて、種族的なモノだから…私自身も意識して喋ってるんじゃなくて…えーっと…」

物凄く、困っている。
それがあんまり珍しくて、何だかちょっと可愛いものだから、私はじっと座木の言葉を聴いていた。

「意識的には、あんまり言えないんだ。その、ごめんね?」

…つまり、天然ってコトか。

「謝ることじゃないよ」
「ありがとう。でも、折角ちゃんと話してくれたのに、それに沿えなかったから」
「うん。だから、敬語はこれからもナシね」
「いいの?」
「だって、座木が敬語使わないのって、今のトコ私とリベザルに対してだけでしょ?」

不思議そうに頷く彼に、えへへ、と笑ってみせる。

「それって、私たちが特別ってコトみたいで、嬉しいんだよね」

照れ隠しに、座木の腕を何度か叩いた。
まじまじと私の顔を見つめていた彼が、ふいに極上の笑みを見せる。


「みたい、じゃなくて、特別なんですよ」


「…え」

思わず、全身の動きが止まる。

「わ、わ。どうしよ」
「?何が?」

ぽかん、とした座木の腕を、ぎゅっと掴む。

「アルコールワード、体験しちゃったっ」

言ってしまってから、慌てて口をふさいで、彼の顔を仰ぎ見る。
座木は、困ったように眉を下げていたけれど、どこか楽しそうに笑っていた。


-END-

何か、幸せそうな2人。
採用した話の元は、こんな感じでした。
これだと長すぎたので、ボツ。…まさか、1pで収まらないとは思わなかった;

さて、気を取り直して、次の話です。

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