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□春はすぐそこに
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「今日から春かぁ」

うぅ、と伸びをすると、顔に冷たい風が吹きつけた。
…絶対、まだ春なんかじゃない。

「そんなカッコじゃ、風邪引くよ?」

ばさ、と背後から乱暴にマフラーが巻かれた。
首の後ろでリボンのようにされた結び目が、少し重たい。

「ありがと。でもさ、暦の上では今日から春なんだよ?」
「だから珍しく、スカートまで履いてきたのにって?」

力強く頷くと、秋が苦笑しながら隣に並んだ。
人の心配をしている割に、彼自身はいつも薄着である。

「秋は寒くないの?」
「うん?僕はヒトより省エネだから」
「…だから、エネルギー燃やさなくて余計寒いんじゃなくて?」

思わず眉を寄せた私の台詞に、秋が一瞬きょとん、とした。
色素の薄い猫っ毛を揺らして、くすくすと笑う。

「じゃなくて、少ないエネルギーで身体をあっためられる、って意味」
「あ、そっか。便利だね」
「まーね」

軽く頷いて、彼はコンクリートに躊躇なく座った。
冷たいんじゃないかなぁ、なんて思って、私も座ろうか悩んでいたら、どうかした?という顔で見上げてくる。

「下が冷たくないかなぁ、と思って」
「ここは日当たりが良いからね。それに、僕には大丈夫な理由がもうひとつある」

なるほど、と私が隣に座ると、秋が得意気に笑った。

「僕の近くには、常に花が咲いてるくらいだから。いつだって、あったかいのさ」
「へぇ、そっかぁ」

花なんて咲いてたっけ?と周りを見回しながら、適当な相槌を打つ。
それが不満だったのか、拗ねた声で名前を呼ばれた。

「ねぇ秋、花ってどれの事?」
「あのさ、分かってないみたいだから言うけど」

ぐい、と肩を掴まれて秋の方に身体を向けられる。
真剣な表情に、怒らせたかな?と少し不安になった。

「自分の事だよ?」
「自分って、秋?」

自画自賛?と思わず笑いそうになると、彼の眉間がますます寄る。
そして顎で、くいっと私を指し示した。


…私?
……何の話だっけ?


たっぷり5秒は固まって、急に身体中の血が駆け巡るのを感じた。
突然動揺しだした私を見て、秋が可笑しそうに手を離す。

「な、なな」
「あっははっは、はは…ひーくるし…くっくっ」

笑いすぎて自分の膝に頭を埋める秋を見ていると、さっきのクサい台詞が台無しになっていく気がした。
冷たい風が、火照った頬を優しく撫でていく。
…確かに、春はもうすぐそこかもしれないな。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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