Thanks a lot

□花の雨
1ページ/2ページ

「あぁ、もう桜が散っちゃったね〜」

何気ない私の一言を聞いて、秋が面倒臭そうに振り向いた。

「ソメイヨシノじゃなくても構わなければ、まだ咲いてるぞ」
「え、ホント?どこどこ!」
「そういうコトは、こっちの方が詳しい」
「ふぇっ!?」

ぽす、と頭に乗せられた手で、無理矢理こちらを向かせられたリベザルが、しきりに目を瞬く。
私と秋の顔を見比べていると、秋がニヤリ、と意味ありげに笑った。
慌てて、ぴんと背筋を伸ばした彼は、いつものように顔を赤くしながら叫ぶ。

「俺、まだ桜の花が見られる場所、知ってます!良かったら、あ、案内しますっ」

もちろん、断る理由なんて微塵も見当たらなかった。



「うわ、ホントに咲いてる〜」
「…良かったぁ」

私が感嘆の声を上げた横で、リベザルが大きく胸を撫で下ろした。
早速彼が連れて来てくれた場所は、道路から少し逸れていて、周囲を見事な桜に囲まれている。

「毎年、ここの桜はちょっと咲くのが遅いんです」
「そっか、ソメイヨシノじゃないんだね」
「はい。師匠もそう言ってました。オソザキの種類なんだって」

確かにピンクが少し濃いし、花びらの数だって多い。
白くて儚げなソメイヨシノに比べて、元気な女の子みたいで、華やかだ。

「お花見って言っても、何も持って来なかったなぁ」
「あ、俺、兄貴からおやつ貰って来ました!」

何が入っているのか、ずっと気になっていた小さなリュックから、綺麗な布包みを取り出す。
座木さんらしいな、と思わず笑みが零れた。
中身は彼特製であろう、風流な串団子。
リュックから、さらに水筒を取り出したリベザルの表情が輝く。

「花より団子、だね」
「あ、ごめんなさいっ」
「うぅん、謝る事ないよ。美味しそうだもん」

ふふ、と顔を見合わせて笑う。
桜の下で食べるお団子は、特別な味がした。


お腹も満足して、周囲の桜を見上げてみる。
ぱたり、と草の上に転がると、微かに土と草の匂いがした。
どこかで、桜の背景には夕方のグレイの空が似合う、という文を読んだけれど、私はやっぱり青空と桜のピンクのコントラストが好きだ。
ホントは真夏の抜けるような青が良いんだけど、それにはやっぱり、向日葵みたいにはっきりした色じゃないと負けちゃうのかなぁ…なんて、つらつらと思っていたら。
ふいに、視界がピンク色に染まった。

「わ、…」

言葉を、失う。

はらはらと舞い落ちてくる花びら。

桜。さくら。サクラ。

空の霞んだ青に、ピンクの濃淡。

花の雨がようやく静まったと思ったら、短い赤毛が私の頭上から覗き込んでいた。

「あの、どうでした?」
「…今の、リベザルがやってくれたの?」
「はい。綺麗かなぁ、って思って」

緊張の面持ちで見守る少年を、まだぼんやりする頭で眺める。

「すごかった。吸い込まれそうで」

綺麗だった、と呟くとリベザルがくすぐったそうに肩をすくめた。
ゆっくり身体を起こすと、大量の花びらが零れ落ちていく。
ふわふわしたピンクは、雨風で痛んでいないものだけを集めてきたらしいことを表していた。
物凄い労力だったろうに、ホントにこの子は。

「リベザル〜」
「はい?」
「ありがとう!」

叫ぶと同時に、花びらを両手ですくって舞い上げる。
わ、と驚いた彼も、すぐに満面の笑顔になって、一緒に花びらを舞い上げた。
周囲の木々から舞い散る花も相まって、桜色の空間は、日が暮れるまで続いたのだった。


―――Fin.Thank you for Reading!!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ