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□かきくけこのお題
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***聞こえない聞きたくない***
「あ、」
「げ、桜庭さ、ん」
街でばったりと出くわしたのは、バイト仲間の1人だった。
次にシフトが合うのは来週のハズだから、それまで猶予があると思ったのに。
「今日和、お疲れさまです失礼します私急ぐんで」
「あ、ちょっと待て…っ」
がしっと腕を掴まれて、咄嗟に振り払いそうになったけど、そもそも力の差がありすぎたのか、さっぱり動けなかった。マズい。顔も見られないのに。
「ひぃ!街中でセクハラですか!店長に訴えますよ」
「店長は関係ないだろ。てか、好きだっつった男に会って、げ、だのセクハラだの、ご挨拶だな」
「ぎゃわぁあ!!」
つまりはあれだ。
この間、勢いで告ってしまったものの、返事を聞く心積もりが未だ出来ていないのである。
自慢じゃないけど、この人から良い返事を聞く自信は全くない。…いや、本気で自慢にならないし。
「お前、あの話だけどな」
「わー聞こえないっ聞こえないよー聞こえない聞きたくない聞きたくないてか聞こえませー「俺も――」ん聞こえ、」
ん?今何か混ざった?
恐るおそる桜庭さんの顔を見ると、怒ったように眉間を寄せている。
「すみません。ホントに聞こえませんでした」
「…聞きたくないんだろ?」
「いえ、聞きたいです」
だって、その顔を見ちゃったら、何だか期待しても良いような気がしてきたんだもの。
「桜庭さん、耳まで真っ赤ですよ?」
Fin.20080514-16/with 01
title from:液体窒素と赤い花