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□なにぬねので5題
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***ぬかるみに足をとられた***
その整った横顔を、ぼんやりと眺めていたら、本人に気付かれて目が合ってしまった。
「何?」
「いや、別に何でも」
「何でもないなら、じろじろ見ないでくれると助かるんだけど」
「んー、例えるなら、ぬかるみに足を取られちゃった、みたいな?」
ずぶずぶとハマって、身動きを封じられてしまうような。
「背中に背負うのと、肩に担ぐのと、夢のお姫様抱っこ、どれがいい?」
「…夢の?」
「今の体勢だと、このまま担ぐのが楽なんだけど、でも人目を気にしたらおんぶかなぁ」
「自分で歩けるんで、謹んで辞退いたします」
例え話に付き合ってくれるのは有難いけど、ここでうっかり話に乗ったら、本気で抱え上げられてしまいそうだった。そんな恥ずかしいことは、どうあってもごめんだ。
「例えるなら、僕はぬかるみどころか底なし沼って感じだけど」
「うわ、深いね」
「ぬかるみなら、自力で脱出できるでしょ?」
僕のはそう簡単に抜けられないの。
何の話か分かってしまっているのか、秋がふふ、と目を細めた。
「でも私は、やっぱりぬかるみだな」
「ふーん?」
だってぬかるみは、意外と心地良くて、離れたくなくなってしまうんだもの。
Fin.20080515-16
でも、ぬるま湯より纏わりつく。
title from:液体窒素と赤い花