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□まみむめもで5題
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昼休み明けの授業が始まるまで、まだ10分はある。
早く入りすぎて、席もガラガラな教室を見渡すと、後ろの方に目立つ頭が突っ伏していた。
「そーわー。隣良い?」
無反応。
「総和、寝てんの?」
無反応。
「返事がないのは、肯定ね」
隣に失礼、と呟いて、もちろん無反応な総和の横に滑り込む。
後ろで一括りにした長い赤毛を、ぼんやりと眺めてみた。さすがに触ったら起こしてしまいそうなので、見るだけにとどめておく。
「ねぇ、総和」
相変わらず、反応はない。
「ここでさ、私がベタに告白とか始めちゃったら、面白いかもしれないよね」
そんなことはしないけど。
授業が始まるまでの残り時間は、総和の赤い髪を眺めて費やすことにする。
学生が増えて教室が賑わってきても一向に顔を上げなかったくせに、始業のチャイムに律儀に反応した総和は、前髪をかき上げながら、ゆっくりとこちらを向いた。
「おはよ、総和」
「面白いと思うから、黙って待ってたのに」
「…え?」
何の話だ、と考えながらも、どことなく嫌な予感がしていた。じわり、と無意識に僅かな距離をとる。
「返事をしないのは、肯定なんでしょう?」
全然寝起きの顔をしていない総和が、悪戯っぽく目を細めた。
「こ、このキツネめ…っ」
「あらやだ、この場合はタヌキじゃないの?」
***まさか気付いてないと思ってたの?***
くすくすと声を押し殺して笑う総和の後ろ髪を、思いっきり引っ張ってやったけど、全然気分が晴れることはなかった。
Fin.20080630/with SOUWA
午後の授業はあえなく全滅。
title from:液体窒素と赤い花