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□まみむめもで5題
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「…うん、美味しい」
てゆーか、美味しすぎる。
もぐ、と一口目を含んだ状態で固まった私に、座木が心配そうな表情を向けた。
「お口に合わないようでしたら、無理せずに仰ってくださいね?」
「むしろ、お口に合いすぎるのです」
むぅ、と眉間を寄せて言う台詞ではない。
座木の顔が、ますます怪訝になる。
「えーっと」
「ごめん、座木は悪くないんだよ」
「…では?」
あんまり説明したくないんだけど、このまま黙ってしまうと座木が可哀相な気がする。
うん、さすがにひどいな、それは。
仕方ない、と自分の中で納得して、すい、と背筋を伸ばした。
座木は元々姿勢が良いから、私の動きに小さく首を傾げる。
「一応これでも女子として、お料理が上手な男子に軽く嫉妬です」
「…しっと、です?」
「嘘だな、軽くどころか物凄い嫉妬。もう妬けヤケ」
咄嗟に意味が理解できなかったのか、私の台詞をオウム返しにする座木に、ちょっとおどけて言葉を重ねてみる。
2、3度ゆっくり瞬いた彼が、不意にふぅ、と息を吐き出して、穏やかな笑みを取り出した。
「宜しければ、次は一緒に作りませんか?」
「…マドレーヌ希望」
こないだの美味しかった、と付け足すと、座木が嬉しそうに目を細める。
「喜んで」
***メランコリック***
私の憂鬱は、こうしていつも呆気なく、次の楽しみへと変わってしまうのだ。
Fin.20080630/with ZAGI
乙女心はフクザツです。
>【melancholic】物思いに沈むさま。憂鬱であるさま。「―な感情」
title from:液体窒素と赤い花