トリップ少女の受難
□この世界に来た理由
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「…か、帰んのか?」
授業も終わり帰る用意をしている僕に、怖ず怖ずと声を掛けてくる隣の席の奴。授業中の僕はずっと負のオーラを出していたから、少し怯えている様子。
「……うん。なんかごめんね」
「あ、いやっ。誰だって不機嫌な時ぐらいあるからな」
なんていい奴なんだ。
僕の八つ当たりを笑って流してくれるなんて。
「ありがとう……」
「うっ、いや別に。俺部活あるから、じゃあな」
「うん、ばいばい」
ありがとう。
君みたいな奴が隣の席に居てくれて助かるよ。
とりあえず、名前ぐらい覚えよう。
「さいなら佐上さん」
「……………」
無視。
たとえ伊達眼鏡男に罪はなくとも、今の僕には君と話す口は持ち合わせていない。
この席のおかげで顔を見ない訳にはいかないが、話す必要はないので、僕は鞄を持って教室を出た。
「……俺、なんかしたんやろか?」
「侑士っ、部活行こう!!」
「あっ、そやな行こうか」
「さよなら忍足君」
「さいなら二宮さん」
佐上がいない教室で二人のトリップ少女のバトルが静かに始まっていた。
(テニス部は私の物。あんたなんかにあげるもんですか)
(その場所、奪ってあげる)