短編集
□華
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凛と誇らしげに咲いて、はかなく散ってしまう桜の花。
人はその一瞬の美に目を奪われ、そして花を愛でる。
この花がこんなにも愛されるのは、単に美しいからだろうか?
…それは違う。
この花自身が、懸命に人々を愛そうとしているからだ。短い命でも精一杯に…
人は花の愛に答えてるだけ…
はかないようで、強い…
そんな姿に惹かれるのではないだろうか?
「オルロワージュ?お前はわらわを愛しているか?」
「何を急に…」
わらわは振り返り、奴の目をじっと見据える。
「違うな。お前は愛しているわけではない。
自分を愛してくれる者を欲しているだけ。無償の愛を求めているだけ…
それを与える者ならば…誰でもいいのじゃ。」
そう…それはまるで、幼子のように…
「オルロワージュ!わらわの憎しみを愛と間違え、未来永劫、わらわの影に縛られるがいい!!」
そう高らかに宣言をし、左胸に短刀を突き刺す。深く…深く。
ああ…華が咲く…華が舞う…
あの頃と同じように。出会った日の桜吹雪のように…
ただ咲くのは、美しい桃色の花弁でも、暖かく鮮やかな赤い血の花でもない。
冷たく暗い青い血の花。
お前がわらわに初めて与えたもの。
お前のものだという所有の印。
わらわは断ち切るぞ、我が夫よ。
お前の呪縛を…お前の影を…
そして、苦しむがいい。これがお前に対する、わらわ最初のわがままじゃ。
fin《次は後書き》