短編集

□虹
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「ア・セ・ル・ス!遊びに来たよー!!」


「また、あなたなの?ゾズマ。って、勝手に人の部屋に入るのって失礼だと思うけどな。
…これ言うの何回目だと思ってるの?」


「うーん…120回目くらい?」


「はあ…もういいよ…」



今日も今日とて、自身の部屋に戻った私が漏らすのは諦めに似た深いため息。

私の部屋に堂々と不法侵入しているコイツは吸血妖魔で名をゾズマと言う。

こう見えて妖魔の中でも屈指の力を持つ実力者なんだけど…

勝手に人の部屋に侵入するわ、あまつその侵入先のソファーで堂々とくつろいでいるわ、人のカップを使って勝手に紅茶を飲んでいるわ…。

とにかく何もかも非常識な行動をとる男なのだ。このゾズマという妖魔は。

…いや、正直ただの変態だよね…コイツは…。格好も含めて。

いい加減、ゾズマがどんな妖魔であるか分かってはきているけれど、生憎、このため息だけはこれから先も止めることは出来ないんだろうな。きっと。


「アセルスー?ため息ばかりだと幸せ逃げるよー?」


「誰のせいだと思う?」


思わず眉間に伸びる私の手。本当に誰のせいでため息が出てると思ってるわけ?

不機嫌をそのままに言葉を紡げば、返ってきたのは至極楽しいと言わんばかりのゾズマの声。


「アセルスー。君、あいつに似てきたね。眉間の皺なんてそっくりだ。」


「なっ…!?誰があんな鬼教官なんか…!?」


「おっかしいなー。誰もイルドゥンの事だなんて言ってないよー。」


ゾズマの言葉に心臓をドクンッ一度と大きく騒つく。

慌ててゾズマを睨むけど、ゾズマは綺麗な顔を楽しそうに歪めて私を見下ろしていて…

…絶対、楽しんでるな…



「顔真っ赤だねー……もしかして僕を誘ってー…」


「出てけぇええええええ!!!」


横の机に置いてあった分厚い本をゾズマに向かって私は思いっきり投げ付けた。

心臓の音がバクバクと騒いで煩いったらない。

何なの!この変態妖魔は!!


「おっと、危ないなー。」


私の投げた本はゾズマに楽々とキャッチをされた。なんでゾズマはいっつもこうなんだろう!!


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