短編集
□虹
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「ゾズマ!私、ちょっと出かけてくる!勝手に部屋をいじらないでね!」
「ちょっ…アセルス!?傘なんか持ってどこ…あーあー…行っちゃったよ。」
私は雨は大好きだけど濡れるのは嫌いだから。あの血も涙もない鬼教官だって濡れるのは嫌だよね?
雨足はますます強くなってきていた。
「どこに行ったのかな?イルドゥン。」
針の城から少し離れた丘まで来てみたけれど、よく考えたらイルドゥンがどこへ出かけたかって事知らなかったんだよね。
「バカやっちゃったな…
うーん…でも、少しだけあの木の下で待ってみようかな。」
木の葉は雨を防いでくれるから、傘にあたる水の量はさっきよりも少なくなって…ぱしゃんぱしゃんと葉から落ちてくる雫の音が心地よかった。
私は自然に目を閉じてその音に耳を傾けた。
それから、どのくらい経ったのだろう…
「わあ…綺麗……」
そう呟いて空を見上げる。いつのまにか鉛色をしていた空の色は徐々に薄れて…
千切れた雲の間から目が覚めるような青が顔を出していて…
そして…空には大きな大きな橋がかかっていた。
すごくすごく綺麗で…掴めないと分かっていても思わず手を伸ばさずにはいられなくて…私はそっと手を伸ばした。
「虹の下には宝物がある…だよね?」
私は幼なじみの男の子の話を思い出した。
その話を聞いたのはずっとずっと前のことだけど、素敵だなって思ったことを今でも鮮やかに思い出すことが出来る。
「宝物ってなんだろうね?」
空の虹に問い掛けても答えはもちろん返ってこなかった。
「…そこで何をしている。」
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