短編集
□虹
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肩越しに聞こえる低い声に思わずビクッと体が動いた。…この不機嫌そうな声は…
「あなたを迎えに来たんだよ、イルドゥン。傘持っていかなかったでしょ?」
少しムスっとしながら振りかえると、そこには予想通り、眉間に綺麗な縦縞を浮かべたイルドゥンがいた。
「はあ…お前は…。妖魔は空間が渡れるのだ。傘など必要ない。
城に帰ればお前はいないとあの放蕩馬鹿妖魔から聞かされるわ…手間をかけさせるな。」
「何、それ!……ううん。いいよ…別に。」
さっきまでの幸せだった気分は一気にどこかに飛んでいっちゃって…イライラって気持ちよりも何だか少し悲しかった。
私が忘れてたのがいけないんだけど…
とにかく、今はイルドゥンの顔が見たくなくて…私は顔を伏せた。
パサッ
「…えっ?」
頭に柔らかい何かが落ちてきた。少し重量があるそれは黒い色をしていて…暖かくて…
私はびっくりして伏せていた顔を上げた。
「…こんなに体を冷やして…お前は自分の立場が分かっているのか?」
「あっ…」
そう言いながら私の頬に触れるイルドゥンの手はとても大きくて…少し冷たくて…でもとてもあったかくて……
いつまでもこうしていてほしいな……なんて……って、えっ!?
「わ、わかってる!そ、それより手!手をどけて!」
イルドゥンの瞳に写る自分の姿を見て、急に頭がクリアになる。わ…私なんて表情してるの!?
「フッ…何を慌てている?…帰るぞ。」
「う…うん。って、そんなにひっぱらないでよ…」
丘の上の空…真っ青なキャンバスいっぱいに大きな大きな橋がかかっていました。
二人を見守るように静かに、でもたしかに…
―…ねえ、イルドゥン…寒くない?大丈夫…―
―…お前のような軟弱者と同列で語るな…―
―…な、何?その言い方…―
虹の下には宝物がある。虹はそれを探すための道しるべ……
fin(次は後書き)