短編集

□ラベンダー
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「…少し外の空気を吸おう…あまり変わらない気もするけど…」


外の風景も嫌いだけど、この城の中はもっと嫌いだから。





薄暗い廊下を燭台に灯したロウソクの光を頼りに進んでいく。

周りにはとても繊細で豪華絢爛な装飾品や調度品。

昔、母さんが読んで聞かせてくれた絵本のなかのようなお城。

でも、今の私にはこんなもの目障りなだけ。


白熱灯の明るい光や不恰好だけど暖かい木の机やベッドが恋しかった。



「あんな夢、見たから余計かな…」






考え事をしているうちに長い長い廊下も終わって、中庭までたどり着いた。 

さっきはずっと下に見えた青薔薇達が目の前を青く染め、視線を空に移せば変わらない紫色の空がそこにあった。



「あの時と同じ色なのに、空と花の色が反対ってだけでどうしてこんなに変わっちゃうんだろう…」

そう呟き、城からは死角になる場所を選んで腰を下ろす。今は誰にも会いたくなかった。





この城に連れてこられてから、どれだけ冷たい視線を受けただろう。


半妖…紫の血…

汚らわしいもの…

忌むべきもの…


耳を塞いでも聞こえてくる声。嘲笑。


一生懸命、無視をした。

言い返したところでどうしようもないと知っていたから。

だけど、泣きもしなかった。

泣いてしまったら、負けてしまうような気がしたから。負けを認めるのは嫌だったから。

だから、泣きたい時は唇が白くなるまで噛んで痛みで涙を抑えていた。


でも…でも……

「っ…ヒック…うっ…えっ…」


もう限界。




自分の膝を抱いて声を殺す。

本当は大声を上げて泣きたいけれど、やっぱりこんな姿を知られたくなかったから。

苦しいのは無理矢理声を抑えているから?それとも別の理由?

……きっとどっちもだと思う。



抱き締めた自分の体は前と変わらず暖かかった。

この暖かさが救いだった。だって血の色が変わってもこれだけは変わらなかったから。

私は私だよ。何も変わっていないんだよ。……そう言ってもらえてる気がしたから。


「っう…ひっぐ…帰りたい…帰りたいよ…会いたいよ…母さんや父さん…に会いたい…会いたいんだよ…」

二人はもういない…わかっているけど願わずにはいられなかった…


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