短編集

□ラベンダー
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「ったく…あの半妖は…訓練の時間だというのに…」


「そんな言い方はないのではなくて?アセルス様だって、急激な変化に驚いていらっしゃるのよ。」


「しかし、白薔薇様…。…わかりました、探してまいります。白薔薇様はしばらくお待ちください。」


「頼みましたよ…。あっ、そうだわ。イルドゥン、あなたにもこれを…」





あの半妖が起きてからというもの針の城の空気が変わった。

それがいい変化なのか、はたまた悪い変化なのか…


セアトやあのラスタバンまでも様子がおかしくなった。

…私には関係がないがな。


「チッ…どこまで行ったんだ。あの半妖は。」

部屋はもちろんのことあいつが行きそうな場所をしらみ潰しにあたっているが中々見つけることができない。

まさか、モンスターのいる塔に…?


「いや、あそこは封鎖されているはず…だが、城内は大方探した。…あとは…」

中庭か…



すぐさま中庭へと空間を渡る。庭では今日も青薔薇が咲き誇り、いつものように芳香を撒き散らしている。

ただ、今日は少し違った。
自分の周りだけを薔薇とは違う種類の芳香が包み込んでいる。


「白薔薇様からいただいたこの花のせいか?なんという花だ?…しかし、この花の色…」


花の色は…美しい紫だった。


「…何を考えてるんだ、私は。」

一瞬頭に浮かべた人物の影を振り払うように頭をふる。

慣れない香りのせいで酔ったのだろうか…?


「馬鹿馬鹿しい。早く見つけなければ…。…アレは?」


あいつはそこにいた。周りから隠れるように、小さな背をさらに小さくして…





「……。」


喉まで出かかった声が詰まる。

それほどまでにその姿が痛々しかった。


声をかけることもしないでそっとその顔をのぞく。

…寝ているのだろうか?規則正しい呼吸音が聞こえてくる。


「…涙?」

眠るコイツの顔にうっすらと涙の跡が見えた。

…泣いていた?この娘が?城の中ではただの一度も泣かなかったこの娘が?


「……。」


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