短編集
□ラベンダー
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「…っ、わ、わたし、寝ちゃってたの?…えっ?これ……」
目覚めた私の肩にはさっきまではなかったマントがかかっていた。
「誰が…一体…この城の人で好き好んで私に近づく人なんか…。ッ…!?」
薔薇のむせ返るような香りじゃない。
マントから柔らかな香りが漂い、鼻をくすぐった。
…この香りは…
「ラベンダー…ッ…!」
それは、あの初夏の花畑で母さんと父さんと一緒にかいだ、あの匂いそのものだった。
止まったはずの涙がまた流れてくる。でも、さっきまでの涙とは違う。
うれしかった。
ずっと一人だと思ってた。
誰かは分からない。でも、これだけで十分だった。
私を気に掛けてくれている人がいる。その事実だけでうれしくて、うれしさで胸が詰まりそうになった。
ダメだ…今日は泣きすぎた…
でも、少しくらいならいいでしょ?今だけ…今だけは……
そうしたら、いつもの私に戻るから…
「遅い!何時だと思っている!!」
「そ、そんなに怒ること…!…あれ?この香り…」
「何を不抜けている。さっさと剣を握れ!」
まさかね……
ラベンダーの香りがした。
Fin《次は後書き》