短編集

□I miss you
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「…じゃあ、さよなら…だね。」


「……。」


「逃げるような形になっちゃったけど私は…って、こんなのただの言い訳だね。
…でもね、一つだけ言わせて…」









「…夢…か…」


いつの間に寝ていたのだろうか…

気が付けば、窓の枠が切り取っていた空の色は覚めるような青から柔らかな赤へと徐々に姿を変えていた。


そう…あいつの血と同じように…




私は背もたれに大きく寄り掛かると、自分の手で目をおおった。

…ああ…ずっと前から気付いてはいた。あの日からずっとずっと胸の奥で燻り続けていた想い。


あの日…アセルスが私達…私のもとから離れていったあの時から…




半妖の少女

世界の異端者

汚れし者



そう呼ばれていたあいつが選んだ道は永遠を捨てて有限を生きること…

“人になること”だった。


生意気にこちらに反抗の目を向けたかと思えば、一転して頼りなく瞳を揺らす事もあった。


いつからだろうか?

汚らわしいとしか思わなかったあいつから目を逸らせなくなったのは…目で追っていたのは…




あいつの手が私から離れていったあの時、本能に任せて血を啜ってしまえばよかったのだろうか…?

かつての妖魔の君がそうしたように。

縛って…しばって…自分の寵妃にしてしまえば…そうすれば…いや…いっそ…


その命までも…



「…愚かだな、私は…」


…そんな事をしてしまえば、あいつは“アセルス”ではなくなってしまうというのに…

醜い独占欲。

だが、それは今だに溢れ続けていて…


いくな…行くな…逝くな…イクナ…


自分の瞳から何かが零れ落ちる。

それが涙だと気が付いたのは後になってからだった…


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