短編集
□I miss you
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朝靄(あさもや)の海の中、気が付けば私はそこにいた。
羽織っていた外隱がやけに重く感じるのは、この靄のせいか…それとも別の何かか…
「……。」
白い墓石に刻まれた文字がぼやけてだぶる。
白薔薇様達が供えた花だろうか…墓の横に置かれたラベンダーの香りが静かに鼻腔をくすぐっていった…
気が付けば、私は屈んで墓石に刻まれた少し苔むした文字を指でなぞっていた…
アセルス、ここに眠る。
願わくばその眠りが安らかであらんことをー…
「…あれ?お墓に人?」
どれ程そこにいたのだろうか?辺りを包んでいた靄はいつの間にか薄くなり、自分の隣に花を持った誰かが立っていた。
「…本当は昨日のうちに来たかったんだ。でも、ちょっと来れなくて…だから朝一で来るつもりだったんだけど…まさか、先客がいるなんてー…
…って、どうかしました?じーっとこっち見てません?」
…言葉が…詰まった……
「…初対面なのに失礼な人だな。
別に珍しくなんてないでしょ?お墓参りに来るくらい。…ちょっと、私の話、聞いてるの?」
「…いや、その…すまない。」
そんなわけがない。
あいつはもういない。
いない…はずなのに…
目の前の少女は…あの時のあいつそのものだった…
「ふーん…まあ、別にいいけどね。
でも、そんな顔なんてあなたらしくないよ。ね、“イルドゥン”?
…あれ…なんで私、あなたの名前…まあ、いっか。」
そう言うと…あいつ…いや“彼女”は目を細めて静かに笑った…
「ここに眠っているのは私のひいおばあちゃんなんだ。
私が生まれる前にひいおばあちゃんは死んじゃったけど、ひいおばあちゃんはいつも笑ってたんだって。
…おばあちゃんが話してくれた。」
彼女は楽しそうに歌うように言葉を紡ぐ。
「…でもね、時々寂しそうに遠くを見ることもあったって…
ひいおばあちゃんには大切な人がいたかもしれない…そうとも言ってた。
…おかしいよね?会ったばかりのあなたにこんな話をするのも。」
いつかあいつは言っていた…
永遠の止まった時間を生きる妖魔…
限りある時間を走りぬけ、そして螺旋のように廻る人間…
どちらが本当の意味で“永遠”なのだろうか…と…
「あなたも祈ってあげて。
そうしたらひいおばあちゃん、すごく喜ぶと思うんだ。」
ー…ありがとう…ー
どこか遠くからあいつの声が聞こえた気がした…
Fin《次は後書き》