短編集

□その意味
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「…しっかし、酷い話だな。あんた達、兄妹の力を手に入れるために村を焼き払うなんてよ。」


「…あいつはそういう男なのよ。
私達を…ううん、特別な力を持っている者達を密かに育ている暗殺者集団に集めて、王室…教会をも凌ぐ力を得ようとしているの。
そのためには手段を選ばない。
誰が泣こうが喚こうが、あいつにとってはどうでもいいの。」



そこまで言うと、ラファはギリッと自分の唇を強く食い縛り、下を向いた。

ラファはバリンテン大公に保護された孤児の一人だった。

表向きはそうだ。

だが、実際は…



「私の使う天道術と兄さんの使う天冥術は、どの魔法系統にも属さない一族に伝わる一子相伝の術なの。
だから、あいつはそれが欲しくて私達の村を焼き払った…」


「…あんたの兄貴って、ついこの間、ヤードーの街で会ったアイツの事だろ?
何であんたの兄貴はそんな奴の命令を素直に聞いてるんだ?」


「…それは…」


「大体、バリンテン大公はラムザの妹まで人質にとってるんだろ?
しかも、人質との交換条件がゲルモニーク聖典を渡せ!だぜ?
普通の神経持ってるんなら少しは疑うだろ?」


「…いい加減にしろ、ムスタディオ。
それに悪いのはラファの兄でも、ましてラファでもないだろう。」


木陰に座り、今までただ黙って静かに二人の話を聞いていた様子のアグリアスさんが不意にそう口を開いた。

心地よい凛とした声。

だけど、その言葉にはいつも強い力が宿っていて…

現に今だって、アグリアスさんに諫められたムスタディオはばつが悪そうに虚空に視線を泳がしている。



「…それにラファの話だとリオファネス城まであと少しなのだから。
休める時に休んでおけ。」



だいぶ傾いた太陽が、春の霞がかった空を柔らかな日差しで包み込んでいた。


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