短編集
□その意味
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「…それも…?」
彼女は訝しげ(いぶかしげ)にその綺麗に整った眉をひそめて僕を見つめる。
僕は、その目から逃れるように一度目を伏せて、それから自分の頭上の木の枝へと視線を移した。
「…アグリアスさん、この花がなんて花か…分かりますか?」
夜の帳を青白い月が照らす。
その中で、その花は咲いていた。
「…サクラ…だったか、たしか…
私も本でしか見た事がないので実際に見るのは初めてだが…」
ざわざわ…とまた風が吹く。
その花…サクラはその枝を揺らし、風は同時にサクラの花弁をさらって遠くへ運び去っていく。
「…ええ、サクラです。じゃあ、この花の特徴…知っていますか?」
「…特徴?…いいや、そこまでは…」
そう言うと、彼女はゆるゆると自分の首を真横に振った。
「…サクラは…というより、この品種は、って事なんですけれど…」
ざわざわ…と、サクラは揺れる。
まるでさざ波のように…音をたてながら。
「…この花は“生かされている花”なんですよ。」
ざわ、と…、また、漆黒の闇の中にその薄紅色の花弁は吸い込まれていく。
「…生かされている?」
「…はい。」
この花は自分自身の力だけで増える事は決してない。
いや、それが出来ない。
だから、誰かが手を加えてやらなければならない…例えば接ぎ木とかですね。
人間がいなければ生きれないんです。
他者によって…他者の手がなければ生きることすら出来ない。
…そんな花…
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