【結城希】
『結城くん、私と付き合って下さい!』
『ごめんなさい、俺今は部活が大事だから』
―それに好きな人がいるんで。
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「…見ーたーぞー?」
「うわぁっ!?先輩!?」
希君やっぱりモテモテだね、と笑う声のした後ろを振り返ると先輩が居た。
「驚かしてごめんね。たまたま通ったら取り込み中で出れなくなっちゃった」
「いえ、別に…」
「いやーしかし身近な人が告白される現場を見てしまうと、なんというか…」
“身近な人”
先輩にそう思ってもらえてると考えただけで嬉しい気分になるのは、俺がこの人を好きだから。
自分が女々しいんじゃないかと思って嫌になるけど、嬉しいものは嬉しい。
「…先輩はなんでこんな所に居るんですか?」
「私?監督の部活連絡を聞きに行った帰りに暇だったからフラフラしてたんだよ」
そしたら話声がして、覗いてみたら希君が告白されてたの。と言って笑っていた。
「嫌なところ見られちゃったな」
「うふふー滅多に見れないモノだから悟も呼ぼうかと思ったよ」
「それは勘弁して下さい…」
悪戯っぽく笑う先輩を見て一緒になって笑ってしまった。
俺は、体育館行きませんか?と先輩を誘って、歩き出した。学年の違う先輩と部活以外で会えるなんてあんまり無いから少しでも一緒に居たい。
たまに長瀬さんに用事があるという口実で、先輩の教室とかにわざと遠回りして行ったりするけどそんなに頻繁に出来る事じゃない。
話しながら歩いていると先輩が言った。
「て言うか、希君好きな子居たんだね」
「…聞いてましたか」
「はい、ばっちり。…で?」
「“で?”って先輩…」
「誰?」
「この流れで素直に教える人なんて居ないと思いますよ」
「あーやっぱりー?」
当たり前じゃないですかと言いながら笑うと、先輩もつられて笑った。
「じゃあヒント頂戴?」
「分かりました、いいですよ」
きっと分からないでしょうからと意地悪く言うと悔しそうな顔をしていた。…先輩にこんな事言えないけど、可愛いな。
「私の知ってる人?」
「…そうですね」
「同学年?それとも違う?」
「違います」
「なにそれー?!大分限られるよ?!良いの?!」
「大丈夫ですよ。きっと分かりませんから」
「うーん…」
ブツブツと独り言を言いながら考えを巡らせていたけどこれと言った答えは出ないようだ。
ここで『貴女です』と言ったら、どんな顔をするかな?
「まぁ、今分からなくてもいつかきっと分かりますよ」
「そんなぁ」
「俺がその人に告白した時は、先輩絶対分かりますから」
「そうなの?でも気になる…」
隣でずっと難しい顔をしていた先輩が急に何かを思いついた表情をした。
そして、ぐるっと首が回ってしまうんじゃないかと言うくらいの勢いで俺を見てトンでもない事を言い放った。
「気になるから早くその子に告白しちゃいなよ!」
「…いいんですか?」
「は?何で私の許可が必要なのよ?」
「…いや、なんでもないです」
そう言うと先輩は、希君が告白すれば誰でもOK出すよーと言って笑っていた。
自分の身に起こる事なのにと思っていると俺だけすごく面白かった。
「じゃあ今年中に告白しますよ」
「マジで?頑張って!」
END
(悟か麻上に聞けば分かるかな?)
(うわ、止めて下さい…!)
2人は俺が先輩を好きだって知ってるし、俺がからかわれちゃいますよ…!