□優しく愛して
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俺とアンタは、きっと相容れない。






優しく愛して


秋の気配漂う昼下がり、公園のベンチを独り占めしてうたた寝。

なんと気持ちのいい事か。
今日は絶好のサボリ日和だ。
などと、お気に入りのアイマスクを付けベンチに横たわりながら考えていた。



すると、

「うぅ〜…あそこで大穴に賭けなきゃ勝ってたのにっ!!」

と、聞いた声が聞こえた。

この情けない声は…。とアイマスクを少しだけずらし、声のした方を見る。

そこに居たのは、グラサンに季節感丸無視のくたびれた半被のような物を素肌に羽織り、短パン姿の男。
男の名前は、長谷川泰三。元官僚。
今は、官僚をクビになり女房には逃げられたまるでダメな男(マダオ)のレッテルを貼られた哀れな男。

エリートコースを走っていた筈の男のとんだ落胆人生をリアルタイムで見ている。

自分はああはなるまい。と考えながら、むくりと起き上がる。

「おいマダオ。何してるんでぃ。」

「ギァッ!!痛い!背中が!背中がグギッて!」

落胆していた長谷川の背中を力の限り蹴り上げた。
蹴られた長谷川はくの字にのけぞり、のたうち回っていた。

「うぅ〜…、まだジンジンするよ…。」

ウルサい奴でさぁ…、背中蹴ったくらいで。

「死ねマダオ。」

「えぇぇぇぇぇっ!!悪いの君だよね!」

ピーチクパーチク、まるで小鳥が親鳥を呼ぶみたいに。

「…はぁーあ、オジサン…君のせいでボロボロだよぉ〜…。」

「…………………。」

あれから、痛みが引いたらしく俺の隣に座った長谷川をじっと見る。

確かに、長谷川の体には俺が付けた傷や打撲紺で痛々しい。
だが俺は、自他共に認めるサディストで虐めることが大好きなのだ。
だから、涙ぐみ長谷川や傷を見ると自分の中の征服欲と加虐心がむくむくと沸き起こり、もっとしたいと考えてしまう。

だが、そこは飴と鞭。

今は、我慢だ。


俺は、お高くとまった官僚が嫌いだ。
長谷川の事も初めは嫌いだった。会ってもいない人を悪く言うなと近藤さんに言われたが、嫌いだった。

しかし、百聞は一見にしかず。

初めて会い、話しただけで、長谷川と言う人間が分かった。

仲間思いで、大らか。少し抜けていて部下に毎度毎度叱られていた。
だが、部下の信頼は強い。

自分とはまったく真逆の存在だと思った。

自分とは相容れない。

その事に、イラついた。

真っ白だと。綺麗すぎる男だと。





「なんかムカついた…。」

ボソリとつぶやき、無言で長谷川を押し倒す。

「なっ!んむぅうう!!!ん、んふぁ…。」

真っ昼間のそれも、いつ人が通るか分からない公園のベンチで濃厚なキスをかます。
最初の抵抗は大きかったが、酸欠なのか抵抗は弱くなっていく。

「ん、ふぅ…んむ、んん…。」

「…ン、情けねぇ面。」

ペロリと、唇を舐め下で放心している長谷川をみる。

さっさと、身形を整え長谷川の上から退く。

「今日は、逃がしてやりまさぁ…。でもいつか俺色に染めてやりまさぁ。」


相容れない存在なら、俺と同じところへ来させればいい。
なんて簡単な事を今まで思いつかなかったのか。

嗚呼、楽しみで仕方ない。



俺色に染まった長谷川を優しく、優しく愛してやろう。

だが、たまには激しい愛もご愛敬さ。









end
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