オヤジ
□ひみつのはなし
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昔つっても10年も20年も前だ。
その頃この界隈は大荒れでよぉ。組織もふたつに別れてたらしいぜ?
その二大勢力のひとつの組織の頭が、まぁ若くて二枚目だって噂でな?どこの女もきゃーきゃー五月蠅かったってさ。
でも反対にもうひとつの組織の頭は、年もそこそこ修羅場も何度も経験してる実力派、外見は悪人面、敵を千切っては投げ違う意味で女も男もきゃーきゃー言ってたって話さね。
そんな暴力が支配する世界だったのさ。
え?俺も悪人面だって?よせやい、話のこしを折るんじゃねぇよ。
それでだ。組同士の小競り合いが何年も続いてよ?頭同士、こりぁいけねぇってーんで話し合いをしようって事になった。もちろん、反対した奴もいた、だがよ?紋々(もんもん)背負ってるからにゃぁ、その世界のルールがある。
話し合いはドスも鉛も置いて、差しで話す。それが粋だ。
あ?結果を教えろ?なんだいせっかちな野郎だなぁ。
人生、そんなに急いでちゃぁ狭い世界しか見えなくなるぜ?
分かった分かった。教えてやるよ。
結果はこうだ。
ふたりの頭は消えた。ふたりが何を話し合い、何故消えたのか。それは分からない。
組員全員がドスやら鉛やらを両手に花で駆け込んできた頃にはもう居なかったからだ。
ただ、ふたりの居なくなった後の部屋には紙切れが一枚、ぽつんと残っていたそうだ。
そこには、真っ赤な真っ赤な赤い字で"旅に出る"ってよ。
そりゃぁ組員たちは血眼で探したさ。なんたって頭が消えちまったんだからな?
情報を持っていそうな奴を捕まえては、地獄を思わせる拷問まがいな尋問をしたり。
若い連中を騙して特攻させたりな?
おいおい、顔が真っ青だぜ?しかもガタガタ震えて…なんだい寒いのかい?安心しな、もうすぐ寒さも感じねぇさ。
「なに気絶して痙攣してる屑に話かけてんだよ。気でも振れたか。」
なんだよ。もう少しで完結だったのに。
「ふざけろ。逃亡者が昔話、暴露ってんじゃねーよ。行くぞ。」
へいへい。なぁ50のオッサンのどこが良いわけ?
「またか…。てめぇは何回同じ事聞けば気が済むんだよ。」
いいじゃねぇか…。
「ふん、全てだよ。あんたが纏ってる死のオーラや肌で感じる殺気。それに、ベッドの上のあんたも最高さ。」
てめぇはつくづく恥ずかしい奴だな。そこが惚れた理由だけどな。
「愛してるぜ?悪人面のハニー?」
聞いてたのかよ。だったら止めろっての。
「赤く染まったあんたが久々に見たくなったのさ。」
けっ、二枚目なダーリンの考えは分からねえな…。
あ、そうそう。気絶してる兄ちゃんよ〜…。この昔話の人物なぁ〜実在すんだぜ?
え?そんなの最初から知ってたって?
なんだいなんだい、話がいの無い聞き手だねえ。
これはむかしむかしの御話。
だぁれにも話ちゃぁなんねぇぞ?
もし、
もし誰かに喋ったら怖いこわぁいおっちゃん達がお話聞きに来るからよ?
むかしむかぁしの御話は
嘘が信か分からないから面白いのさ。
これはむかしむかぁしの御話だ。
あいや之まで。
話はこれでおしまいだ。
だぁれにも話ちゃぁなんねぇぞ?
この話は墓場まで持ってきな。
三途の川を渡るとき船頭にでも話してやんな。
死人にくちなし、黄泉の国なら話していいぜ?
じゃぁな。若いの。
ひみつのはなしをしよう。
聞くのは自由、ただし誰かに教えちゃいけない。
行きはよいよい
帰りは怖い
聞くも聞かないもあんた次第さ。
end