□甘美な誘惑
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気が狂いそうな月日を生き
つまらない俗世を見てきた

人間は所詮は、オレの餌だ。

人間が豚や鳥を飼い、それを喰らうようにオレも人間を狩り喰らう。

人間の血はオレの食事──。




今宵も餌を狩りに行こう…


「うひぃ〜…、もうこんな時間だよ…。」

街に出てめぼしい女が居らず、帰ろうかとした時、
今までに嗅いだことの無い甘美な匂いに誘われ、匂いのする方へ向かった
そこには、おどおどと挙動不審な動きをしながら帰りを急ぐひとりの男だった

ごくり…

無意識に喉が鳴った。
男との距離はまだ遠いというのに匂いは濃くなりオレを誘う

鼻孔をくすぐる甘い甘い匂い
渇きが急速に体を駆け巡る

喰らえ───クラエ

喉が渇いた…、血が欲しい…

ごくり…

またのどが鳴る…。

男に気付かれぬよう背後に近づく
また匂いが濃くなる

「…いただきます。」
「え…っふぁ。」

ジュルジュル

男を背後から抱き、首筋に牙を突き刺す
喉を通る血の味がたまらない

「んぁあああっ!なっやぁん!」

牙には痛みを快感に変える毒液を分泌する機能のようなものがあり、狩りを円滑に終わらせられるが、今日はそれを出していない。
だと言うのに、この乱れよう……そしてこの血のなんたる甘美な事か

…ここで殺すのは惜しい。

ペロリと首筋をひと舐めし、顔を蒼白くさせぐったりとしている男を横抱きにする

「…これから面白くなりそうだ。」


甘い香に誘われて

手に入れたのは

甘美な血の味の人間の男


退屈な日々がどう変わるのか楽しみだ…



くくっ、と小さく笑い

闇へと消えた。
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