銀
□苦いコーヒー
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二丁目の角にある寂れたバー。
そこには、世の中の酸いも甘いも経験したおっさ……改め、マスターが居る。
ネオン煌めく歌舞伎町。今日もバーで人知れず、悩みを抱えたお客がやって来る。
「あらん?やだっ!泰三ちゃんじゃないの!ご無沙汰ね〜。」
カウンタカーを飛び越えんばかりに身を乗り出した、深い蒼のグラデェーションのドレスに身を包んだ筋肉質の男性は、野太い声で店に入ってきた長谷川を迎える。
迎えられた長谷川は、苦笑を浮かべ
「あぁ…、色々あってさ。」
と一言、言ってカウンターの隅へ座った。
「んもぉ〜!色々ってなによ!他の店に浮気してたらサラ泣いちゃうから!」
えんえん。と泣き真似をするマスター。
ドレスから見える上腕二頭筋が見事だ。
「マスター〜。浮気なんてしてないから。ね?仕事が忙しかったんだよ。」
サラは、ちらりと長谷川を見るとどこから出したのか、日本酒を出した。
銘柄は『魔王』であった。
「ふふ。嘘よんvV泰三ちゃんが久しぶりに来てくれたから意地悪したくなっちゃったのvV今日は、久しぶりだから奢っちゃうわよんvV」
コップに日本酒を注ぎいれ、乾杯する。
暫くは、無言だった。
しかし、それを破ったのはサラだった。
「んで?泰三ちゃんは今、なにを悩んでるのかしら?」
カウンターに頬杖をつき長谷川を見る。
長谷川は、コップを静かに置き、サラを見つめ小さくため息を付いた。
そして
「分かっちゃう?」
眉を、八の字にし悩みを打ち明けた。