朝露に濡れた紫陽花。
それを視界の端で捕らえると、もうそんな時期なのかと銀髪の男は思った。

別に理由は無かった。今朝はたまたまいつもよりはやく起きた。
だからふらっと外へ出てみただけだった。ただそれだけ。深い意味は無い。



ふと空を見る。
今にも泣き出しそうな表情だ・・・・はやく万事屋へ戻ろう。
そう思った矢先。

「なんだ、銀時ではないか」

黒い長髪の男が現れた。昔戦友だった男で、今はテロリストだ。
そういえばあの不思議な物体が今日はいない。いや、『最近』いないの間違いか。

「よォ、こんな時間にこんなとこで何やってんだ?ヅラ」

「ヅラではない、桂だ」

お約束のあいさつを交わす。
ここはあの頃と変わっていない。

おぬしこそどうしたのだ?まさかとうとうあの家まで追い出されたのか?などと
ふざけた事を抜かしやがるもんだから、つい頭を殴ってしまった。
これもあの頃と変わっていない。





「・・・そろそろ攘夷派に戻らんか?」

・・・・・・・

「昔のようにまた天人どもをこてんぱんにしてやろう!」

・・・・・・・・・・・・・

「それで」
「ヅラ、」



言葉を遮る。




「俺はいつも俺のやりたいようにやってきた」

いつもそうだった。

「昔の俺は、したいようにして、邪魔な物は皆ぶっ壊してきた」

いつも我侭だった。

「でもなァ、今は違うんだよ」

其れは過去の話だ。

「天人でも、全部が全部悪い奴なんじゃねェからな」

・・・・・・ほんの少し。

少しだけ、成長したのかもしれない。


あの戦いだけの日々の中で。



銀髪の男はそういって悲しそうに微笑んだ。



「・・・・・変わったな、銀時」

「・・・・・いや、俺は俺。元からこんな奴なのさ」


涙がこぼれてきた。
黒髪の男でも、銀髪の男のものでもない。

空のものだ。


顔を見合わせくすりと微笑むと、黒髪の男は時間を確認し去っていった。
銀髪の男も、黒髪の男と同じように時間を確認し、紫陽花の咲く道を後にした。


紫と。銀と。黒と。
それだけが知っている、少し悲しい過去の話・・・





end.


[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ