「・・・・あ・・・・」



ふと空を見上げた。
そこには、暗闇と静寂の間を縫うように、月がただひっそりと佇んでいた。




月を探して。




夜。
本来ならとっくに月が出ていてもおかしくない時間帯だ。
しかし、今日は月が出ていない。と、いうより見えていない。

「・・・何やってんだ総悟」

「月を拝もうと思ったんでさァ」

「見えるわけねーだろーが。今日は――」

そう。今日は空が曇っている。
今日のアイツも曇っていた。
それを思い出して空の月はどうなのかと思ってみたのだ。

「わかってまさァ・・・でもね、今はどんな月でも見ていたいんですよォ」



俺にもっと力があれば、アイツの心も晴れにできるんだろうか。
今日のアイツは・・・・どうして曇っていたんだろう・・・。




そんな事を考えながら月の見えない空を見ていたら、

「何やってるカ?」

こんな屋根の上で、とチャイナ娘が登ってきやがった。驚いた。

「・・・なんでアンタがここにいるんでィ?」

「銀チャンがいきなりあのマヨラーと大食い対決するって言い出したアル」

・・・・・・・・あのおせっかいめ。
思わずため息をついた。

「で、なんでわざわざこんな所まで登ってきたんですかィ?」

向こうは少し俯く。

「・・・・・からヨ」

ぼそっと呟くチャイナ。聞こえなかった。



「え?」

「・・・・・お前が・・・寂しそうに見えたからヨ」

寂しそう?・・・・この俺が?

「何考えてたアルか?」

相談に乗ってやらないこともない、といい微笑む彼女。
・・・・・誰のせいで悩んでると思ってんだこいつ。

「・・・そういえばなんで今日は泣きそうだったんですかィ?」

少し目を開いて驚く。

「話を摩り替えるなアル!」

強い口調で反論する。だが前を向きなおし、彼女は遠くを見つめた。

「・・・・・・・お前が・・・・お前が銀チャンに余計なこというからヨ!」



・・・・ああ、やっぱりそうなんだ。この娘はあの甘党に恋しているのだ。
俺はこの間、あのちゃらんぽらんに、この娘の想いをぶちまけてやった。
こいつは耳まで真っ赤にして、あの男を見つめていた。きっと初恋だった。
・・・・俺はそれをぶち壊してやったのだ。



「・・・俺を軽蔑しますかィ」

「・・・・・・・」

沈黙が痛い。今更だが罪悪感の波が襲ってくる。



「・・・・・銀チャンは・・・あの後優しく頭を撫でてくれたアル。」

ようやく沈黙を破る彼女の透き通った声。

「でも、その後に・・・」


『お前の想いはまだ本当の恋じゃない。きっと憧れなんだ。』


想い。思い。重い。
恋ってなんだろう・・・と考えていたときを俺は目撃したらしい。

「・・・・でももう気にしてないアル」

色々考えてたら馬鹿馬鹿しくなってきたらしい。
・・・彼女らしいといえば彼女らしい。



「・・・・あ・・・・」



ふと空を見上げた。
そこには、暗闇と静寂の間を縫うように、月がただひっそりと佇んでいた。




今の彼女のように
静かに微笑んでいるように思えた。



end.


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