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□『oen side』
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 トータルで10万以上。シャツ一枚とっても、2〜3万はする。社会人ならともかく、とても学生には手が出ない。
 それどころか、キラには『学生』の前に『貧乏』がついてしまうのだ。

 実家を出て一人暮らしの身。家賃と学費と僅かばかりの生活費は親から出ているけれど、その他はバイトで賄う日々なのだ。

 美術系の大学に通うキラにとって、バイトに明け暮れる生活は有り得ない。次から次に出される課題をこなすだけでも、いっぱいいっぱいで。

 おかげで、バイトで稼げる金額は、たかが知れていた。

 だから、雑誌で初めて見て一目ボレしたそのブランドは、当然キラには高嶺の花で、学校からの帰り道に新規オープンしてしまったショップの前で、ピカピカに磨かれたガラスにへばりつく毎日を送っていた。

「アスラン、来ましたよ、例の…!」

 ショップの中から外を眺めていたニコルが呼ぶと、奥にいた青年が顔を出した。

 彼の名はアスラン・ザラ。彼こそが、このブランド『Zara』を立ち上げた若きデザイナーで。

 元々が、多数の事業を経営しているような家の一人息子として生まれ、将来はその全てを継ぐのだと思われていたのに。
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