†メルマガBN†
□『メリクリ』
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―――僕は、同じ人に二度恋をしている。
「寒くなってきたね〜」
信号待ちに横に並んだ、見知らぬ女の子達の会話が聞こえた。
「X'masは、彼氏と?」
「うん、もうホテル予約したんだって」
すぐ隣の会話だから、別に聞き耳をたてているわけでも無いのに、聞こえてくる。
「いいな〜」
信号が青に変わる。
人の波が一斉に動き出して、さっきの会話もザワメキに紛れて消えていく。
僕も、その波に飲まれながら、駅から職場への道を急ぐ。
――――X'masか…。
ふと、耳の奥に残った一つの単語が、僕の思考を占めた。
一緒に思い出されるのは、藍色の人影。
たぶん彼も、誰か女性と過ごすんだろうな…。
「アスラン」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で囁くと、胸の真ん中が温かくなった。
けれど、同時に切なくもなる。
馬鹿だな…、と口から出た溜め息は、酷く白くて。
叶わない事を幾ら考えても、無駄だし虚しいだけなのにね。
彼には、社長のお嬢さんとの婚約の噂があって。僕を、悲しくさせた。
だって、僕はずっと好きだった。言ってないけどね。