企画
□秋の匂い2
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その時の俺に必要だったのは、ほんの少しの勇気だった――――
「えっと…元気だったか?」
出だしから失敗したと思った。何が元気だよ。こんなに痩せて…明らかにそうじゃないって分かるはずなのに…
「あぁ、まあな」
そんな俺の問いに土方は肯定の返事をした。返事はしてくれたけど、決して目は合わせてくれない。
土方が嘘をつく時の癖。だがそれも、今の俺にとってはショックだった。
無理するなよ。とか、そんなことを本当は言いたいのに言えなくなってしまう。
そして俺は言ってはならないことを言ってしまった。
「そういやオメェのとこのゴリは元気か?」
「っ!!」
そう言った瞬間、土方の肩はビクンと揺れた。
その話題には触れて欲しくはない。
そういった感じで顔をそらし、唇をぎゅっと、血が滲み出るくらいに噛んだ。
「…元気だよ」
相変わらず目をそらしたまま土方が言った。何かあったのだろうか…?
だが土方はそれを聞く時間も与えてたくれなかった。すぐに立ち上がりだしたのだ。
「悪ぃ。もう行かないと…じゃあ」
そう言うとすぐに土方は歩き出そうとしていた。
だめだ。まだちゃんと話してないのに…このまま何も言えないまま、土方を離すなんて…好きだと言えないまま……
伝えるんだ。【愛してる】と―――
そう思った瞬間、とっさに俺は土方の腕を掴んでいた。
「待って、俺はおめぇのこと…」
だが、俺の言葉を遮り、土方は小さく何かを言った。肩が震えている。
「やっ…ろ、は…なせ」
「土方…?」
さっきからおかしすぎる。一体どうしたんだと掴んだままの腕を引っ張り顔を覗こうとした時だった。
「…放せっ!」
「っ……」
土方に、拒絶された。
そう感じてしまった俺はずっと掴んだままだった腕を放した。
「ごめん…」
いたたまれなくなり、そのまま俺は土方から目をそらした。
だから気付かなかったのだ
俺が腕を放した瞬間、傷付いた表情をした土方に。
そして、走り去る土方が泣いていることに…
続く