あまつき

□凍てつく蝶は何想ふ
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「おい、梵天の野郎まだ起きねぇのかよ」



壁の隅っこで不機嫌な顔をしながら露草は未だ起きる気配のない梵天をジロっと睨んだ。


「うむ、起きるまではそっとしておくしかないである」


規則正しい寝息をたてる梵天の横には空五倍子がじっとその様子を見ている。


『梵天』になってからは特にこうなることが多くなった。

幼い頃から共にいる露草にもどうしてこうなってしまったのかはわからない…。正確には《忘れさせられた》のかもしれない。

結局のところ梵天は何も話してはくれないので真実を知っているのも梵天一人なのだ。


それだというのに、こうして周りに心配をかける。



……………。


心配…?


俺が、梵天を……?




絶対にありえねぇっ!!!!




「…けっ、呑気なもんだぜ」



俺はただ梵天が寝てしまうと暇だからムカつくだけであって、心配なんかこれっぽっちもしてねぇよ!


一瞬でも頭のなかにでてきた心配という単語にまたムカつきながら露草は部屋から出て行ってしまった。


「これ露草!どこへ行くのだ!」


すかさず空五倍子も露草の後を慌てて追う。


そして、開け放たれた襖からヒラヒラと光り輝く蝶が入ってきて、そっと梵天の髪に止まった。




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