あまつき

□満月と沈まぬ想い
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今年もまた、あの季節がやってきた―――――






満月と沈まぬ想い






幾度となく待ちわびた季節



何度会いたいと思ったことか



けれど





それはもう叶わない




あの頃のように



温かな気持ちで会うことは―――――




梵天は一人静かに、少し遠くに見える赤い鳥居を見つめた。


妖の自分が近づけばあの姫巫女に気付かれてしまう。だから結界に影響しない距離にいなければならない。


どうしてこうなってしまった――?



どうして…?



そんなの分かりきってる。




俺があの日、禁域に踏み入ったから



そして銀朱と出会い、冬になれば毎日のように通っていた




いつも、冬が来るのを待ちわびていたから




今ならわかる。

苦しいほどに胸が締め付けられるこの気持ちを



好き というのだと――



妖が人に恋するなんて、こんな可笑しな話しはない。


その報いとして、俺は大切な人をたくさん傷つけた。


白録も


露草も


銀朱も


そして、


たくさんのものを失った




天帝は、俺を見てさぞ滑稽だと笑っていただろう。



所詮、俺もこの世の理の上にいる


逃れることは出来ないんだ…



あの頃の様にまた会いたい気持ちはある。けれどそんな気持ちではもう会えない…



今じゃ立場が違いすぎる。


姫巫女と天座の頭―――



決して交わることはない




「私の、せいですかね」




あんな想いをさせたかったんじゃない。


あんな身体にしたくてしたんじゃないのに



けれどすべては、俺のせいだ




ならばこれ以上傷つけないように…


失わないように…



こんな想いは心の奥底に沈めて



俺は遠くから、見守っていればいい




梵天はゆっくりと目を伏せてから、暗闇を優しく照らす満月を見上げた。


こんな満月の夜には思い出す





『さようなら、おとろしもどきさん』



『――っ、白録だ!!』




君と出会った、遠い冬―――






「梵!こんなところにいたであるか!!」


「空五倍子…」


しばらくそういていると空五倍子が慌ててやってきた。俺を探して飛びまわっていたのだろう。


「このような場所で一人何をしておるのだ!!」


ここは神社の近く。空五倍子の言いたいことはわかっている。


「うるさいよ。帰るぞ」


間違っても敵だということは




それでも


俺は―――…





end.
 

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