story
□涙のちハレ
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私は、お京さんと一緒に電車に乗って御茶ノ水にあるお京さんの家に向かった。
御茶ノ水駅で降りて10分…
辿りついたお京さんのお家に私は感動した。
3階建て!
まるでおとぎ話に出てくるような白い壁と青い屋根の愛らしいお家。
庭には色とりどりの花が咲いていた。
都会にこんな素敵なおとぎの国があったなんて思いもしなかった…。
「お京さんのお家って大きいんですね!!私感動です!!」
そう言った私にお京さんは優しく微笑みながらこう言った。
「ふふふ、お気に召していただけて光栄だわ。さ、あがってちょうだい。優雅にティータイムを楽しみましょう。」
「はい!!」
お京さんの後を追って私は家の中へ向かった。
中に入ると、綺麗な空の絵がたくさん飾ってあった。
「この絵…すっごく綺麗…」
私が心を惹かれたその空の絵は、色鮮やかな青い空。
そしてその空を滑るように飛んでいる白い紙飛行機。
なんの変わり映えもないそんな絵だけれど…私はこの絵がとても好きだと思った。
絵に見とれていると、お京さんがそっと言った。
「それはね…あたしの弟が描いたものなの。」
「弟さん?」
お京さんは優しく微笑みながら静かにうなずいた。
だけど、さっきの微笑みとは少し違っていることくらい、私にだってわかった。
どこか悲しさを感じているように見えた。
―それ以上聞いちゃいけない―
そうわかっていたのに…私は聞いてしまった。
「…お京さんの弟さんは今どこにいるの…?」
私の質問にお京さんは動じた様子もなく、そっと目を閉じて穏やかな声で言った。
「弟…左京は…この絵の中に…空に溶けていったわ…」
その言葉を聞いた瞬間、私は激しい自己嫌悪に襲われた。
―私は…私はなんて…なんて残酷な人間なんだろう…―
何となくわかってた…それなのに興味本位でお京さんの悲しい過去を抉り出したんだ…
そのうえこんな自己嫌悪に襲われて苦しくなるなんて私は本当に残酷で醜い…
そんな私にお京さんは話を続けた。
「あの子ね、画家を目指してたの。一日中ずっと空を見上げてて…何を考えているのか家族も全然わからなくって…」
私は黙って話を聞いていた。
「空を見上げては絵を描いて…あの子が描いたこの空を見て…あたしね…羨ましくなっちゃった…」
「羨ましい…?」
「えぇ…この子の世界は…この子の目に映るこの世界はどんなに美しい世界なんだろうって…」
「うん…」
「あたしの目にうつるものは何にも変わらない…汚れたものしか見えなくなって何もかもどうでもいいと思ってたのよ。」
「…っ…うん…」
「でもね、あの子の絵を見てあたしは前向きに変われたの。」
「……うん…」
「あの子が白血病になって、消えてしまう前に描いた空がこれだったの…だから…あたしもこの空が一番好きなの…最初はあの子が消えて悲しくってあたしも死にたくなったの」
「…ひっく…う…ん…」
「でもね、この空の絵が…あの子が…あたしに「生きてくれ」って言ってるみたいで…死ねなかった…でも、それだけじゃなかった。」
「……」
「あたしの空は…あの子は…この絵の中にずっとあるんだって気付いたから…死ねなかった…ううん…死にたくなくなった!…って天秤ちゃん?」
お京さんが驚くのも当然。
私がお京さんの服の袖をつかんでいたのだ。
「ひっく…えっぐ…うぅ…お…京さん…」
「天秤ちゃ…」
「私が…っ…私が…左京さんに負けないぐらい…綺麗な空に…空にな…る…!…だから…だから…っ!」
「ふふふ…泣くと可愛いお顔が台無しよ?」
私の頭にそっとお京さんの大きな手がのっかって優しくなでてくれる。
頭をなでられた私は涙が余計に溢れてきてしまっていた。
私の目から大粒の涙がボロボロと零れていく。
「お茶でも飲んで落ち着きましょうねっ♪」
お京さんは私の背中を押していく。
私は涙を拭って精一杯に笑って見せた。