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□心のない瞳
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虚ろな瞳が好きだ




心のない瞳





「ただいま」


おかえり、と声が聞こえる


靴を揃えてリビングへ向かう。比較的広い部屋は俺が望んだようにカスタマイズされていて埃ひとつない綺麗さだ

ここ最近は患者が多く、あまり帰るがないことから物はあまり置いてない。むしろ、置いておく必要はないんだが。



「腹へったな。シチューにするか」



この生活に身を投じてからだいぶ経つが、最初と特に何もかわらないように思う。慣れた所為もあるだろうが、何よりこの空間を心地よく感じているからだろう。俺は、今幸せだと思う。


盛り付けを終え、ベッドルームへ向かう。そこには愛しい人が眠っていた



「今日、やっとあの患者が死を受けいれたよ。兄が代わりに自分の心を授けたんだ。…愛しい人のためには自らも差し出す。俺にはわからないが、凄いことなのかもしれない」



お疲れさま、と聞こえる



「本当に、疲れた。明日は患者の恋人のほうを"行かせてやる"ことになった。"肉親"の兄をこっちに取り戻したいらしい。人間は、本当に強欲だな」



死を受け入れない者、その者のために心を差し出す者、自ら心を投げ出す者。それらが行く世界、俺は仮死世界と呼んでいる。その者たちに心を返すため、俺は他人から心の回収をする日々。


この仕事に需要があるかなんて知らないし、こんなことをするなんて狂ってると思われるかもしれないが、俺が忙しいのはこれを望む者がたくさんいるからだ



「分かりたくもないな、人間なんて」



そう吐き捨てると、ベッドに横わたる愛しい人にキスを落とす



ぴくりとも動かない彼女に笑いがこみあげる




「あんたもあの世界にいるんだな」

今頃、自分が何故あの場にいるのか分からなく彷徨っているんだろう。


「俺が奪った心、ちゃんと保管してある。」

好きなものは傍に置いておく主義なんだ、悪いな


「あんたの瞳は、好きだ」

そういえば、あんたは俺が嫌いだったな。あいつが好きで仕方なかったのに、こんな形で別れることになるなんて思ってもみなかっただろうに。


本当に、この仕事をして良かったと心から思う。あいつは、あんたを探してるだろうが善良な人間の一人だ。俺達に心は売らないはず。


「"心をあげてお前を生かしてもあんたは喜ばない" あいつは、そういうだろうな」


その前に、心をあげることなんて考えるような人間ではないんだよ、あいつは。まあ、いきなり最愛の恋人が消えたんだ、身体も俺のもとにあるんだからあいつは何も分からない。…必死に探し手入ればいいさ。





「あんたの心は俺のもんだ。」



眠る彼女に、キスを落とす。







彼女の瞳は、もう色をうつすことはない






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