ぼくたちの、かあちゃん

□ぼくたちの、かあちゃん (7)
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「かーちゃん!かーちゃん!」

「かあちゃーんッ!」

「もー、なにー?」

「ことしの夏休みはどっか連れてってくれるんでしょー?」

「夏だー!プールだ!海だーッ!」

「も!もちろんで、ございます…」







夏休みかあ…、夏休みねえ……、どこか行きたいよね…。
カレンダーに書かれた夏休み!という赤丸印と、朝仕事に行く準備をしていた私を
期待に満ち溢れてキラキラと輝く汚れのない目で見る2人を忘れられない。
去年は夏らしい楽しいところに連れて行ってあげられなかったもんね…、ごめんね。
去年は仕事が忙しくて、とうとう夏休みに合わせて休暇をもらえなかった分
今年は…と気を遣ってくれたのか、夏休みに合わせて休暇を多めに貰えたし
どこかに行かねばならないのは分かっているけれど…
ていうか、もう来週になるのか、ヤバイ…ぜんぜん考えてなかった…



「…はあ、」



2人の母親として可愛い子供の喜ぶ顔が見たいと心から思うけれど…、そうなのだけれど…。
帰宅途中の電車の中で携帯をいじって調べてみると、うう…、やっぱりどこも超混んでる…。

遊園地…?
いやいや、三之助は楽しくても左門は絶叫が苦手だし、人はいっぱい居るし迷子確定。
旅行は…?
迷子になったらもう一生見つからなそうで怖い。
プールと海…?
いやいや、私の体力じゃ2人に勝てないし、気が付かない内に2人で溺れてたりしたらどうしよう。

ゾーっとするようなイメージばかり湧いてきてしまうけど、2人は楽しみでいっぱいなんだろうな。
…うーん、留三郎のヤツ野球だけじゃなくてどっか連れてってくれないかなー。
…なんて贅沢言ってられないか。
考えてもなかなかいい答えはでなくて、携帯とじっとにらめっこしながら改札を抜ける。



「……うわっ」



ああ、もう1人で考えていてもダメだー!と思って
携帯から顔を上げると、すぐ前に人がいて驚いた。
慌てて歩くスピードを落とす。
あやうくぶつかるところだった…ながら携帯って、危ない…。
1人で冷や冷やしながら、携帯をカバンにしまう。
ぶつかりそうになった目の前の人。
スラッとしたたたずまいの、スーツの男の人。



「……ん?」



もしや…と思ってその人に再び近づいて、さりげなく並走しながら顔をみてみると



「………あ、やっぱり仙蔵だ、ひさしぶり」

「なんだいきなり。名前か。驚かすな」



別に、驚かせてないのに…。
ていうか、久しぶりに会ったのに、相変わらず超クール。



「仙蔵、今日は仕事、早いんだね。」

「まあな。」



仙蔵は、留三郎と同じで幼馴染みの1人。
…まあ、こっちでの私の友達なんて幼馴染みの奴らくらいなんだけど。
その中でも仙蔵は、たまたま私の家の近くに住んでいる。
でも、売れっ子営業サラリーマンだから忙しいらしくて本当にたまーに駅で会うくらい。
顔がいいからかな、仙蔵をお目当てにしてるお客さんがたくさん居て大変なんだって。



「…そう言えば、小平太がお前のこと心配していたぞ」

「小平太が?なんで?」



小平太、なんて久し振りに聞いた…。
地元に残ってるほうの、幼馴染みの1人が小平太。
小平太は高校を卒業した後も、小平太のお父さんの仕事を真面目に継いで毎日海で働いてる。



「ああ、来週帰るんで連絡してみたらな。」

「…ふーん。」



私のことばかりで話が進まないから小平太のことは無視して長次に連絡したって、なんとも仙蔵らしい。
…かくいう私も、小平太からの連絡返してないや。
だって、今日も大漁!みたいな自撮りと魚の写真ばっかりなんだもんアイツ。



「じゃあ、帰るって…実家に?」

「そこしかないだろう。」

「…ねえねえ、来週ってほんと?」

「…だから、本当だ。」

「夏休みだし、…電車激混みじゃない?」

「まあ、…早い時間なら空いてるだろ」



たまには戻らんとな、と言う仙蔵。
……よし、決めた!



「じゃあ、仙蔵がお供してくれるってことだね!」

「は?」



仙蔵、今日私たちが会ったのもやっぱり何かの縁だよ。



「わたしたちも、一緒に帰る!」

「オイ、……冗談だろ。」



仙蔵の顔がゆがんだけど、気にしない。
左門、三之助、楽しんでくれるといいな。





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仙蔵はバリバリの営業マンでスーツがステキだろなとおもいます。
これから何話か仙蔵のお話になるとおもいます

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