誰よりも好きです、好きです

□誰よりも好きです、好きです
1ページ/1ページ





三郎が、名前という存在に興味をもったのか
浜が名前のことを好きだ、ということに興味を持ったのか
名前の後ろの席ということを利用して、名前に毎日話しかけるようになった三郎。


好きなのは甘いもの。
好きなタイプとくになし。
趣味とくになし。
好きなアーティストとくになし。
好きな芸能人とくになし。
犬より猫派。


…と、あまり有力でない情報をしたり顔でイチイチ俺に報告してくる。
アイツ曰く、名前のペースに合わせて1日1〜2回くらい質問してるらしい。
いつのまにか名前も鉢屋くんと呼んでいたのが、三郎くんにランクアップしてるし…。
三郎のやつ、確実に俺よりも名前と仲良くなってるな…。



今日なんて、席の後ろからあの名前の髪を結んであげていてビックリした。
器用な鉢屋だからか、名前もとくに嫌がらず何も言わず髪を触らせている。



「…すっかり、仲良しになっちゃったね、大丈夫なのかな。」

「知らねーよ。三郎のヤツ…何考えてるんだか。」



廊下から雷蔵と2人のそんな姿ををぼーっと見つめる。
…正直その姿が悔しい、自分にはできなかったことだから。
あんなにとっつきにくい名前なのに、短期間であそこまで仲良くなれるなんて…
三郎にかかれば名前も攻略できるのかな、なんて溜め息をつきながら思っていた時。



「た、竹谷先輩!!」

「わッ、浜…」



元気のいい聞き覚えのある声。
それでいて今一番聞きたくない声が聞こえて、心臓がビクッと飛び跳ねた。
浜は俺を見つけると嬉しそうに笑って、かけよって来ている。
ヤバイヤバイ、と手にじとっと汗をかきはじめたのが分かった。
遠くから見える浜の姿に、雷蔵も驚いたように目を見開いていた。



「お疲れ様です!雷蔵先輩もお久しぶりです!」

「お、おお、おつかれさまだな!」

「う、うん、ひさしぶり」



うまく言葉が出てこない俺と雷蔵。
動揺しているのが伝わってしまいそうだったけれど、そんな俺達のことは目に入っていないようだった。
いつもと変わらぬ浜のまぶしい笑顔に、余計に焦る俺の気持ち。
ねえねえ、だいじょうぶなの?と心配そうに俺を見る雷蔵。
それが大丈夫じゃないからこうやって焦ってるんだろーが。



「たまたまこの階に用があって、その…寄って、き、きちゃい、ました」

「あ、ああ、そ!そうだったのかあ!なあ、雷蔵!」

「う、うん…浜くん、最近の部活はどう?」



だってきっと、浜が会いに来たのは
俺でも、雷蔵でも、他の誰でもなく、名前になのだろうから。
俺達と話をしながらも、教室のほうをチラチラ見ている浜。
あ、きっと、もうダメだ。
隠しきれないと悟った。



「今は絶好調なんで、凄く良いかんじ、で……、す、………」



さっきまであんなに嬉しそうな顔をしていたのに。
ある一か所を見て、急に目を見開いて固まった浜。
ドクン、と俺の心臓も再び跳ねた。
浜のその目線をたどらなくても分かる。
それは、きっと、間違いなく、三郎と名前のほうだった。



「竹谷、せんぱい、」

「浜、あれは、その…だな!」



何か言いたげに俺の名を呼ぶ浜。
言いたいことは分かった、言われなくても分かった。
だって、俺、協力するって…。
浜に協力するって、言ったのに、それなのに。
いつも元気で真面目で優しくて笑顔が絶えない浜。
今の目が泳いでいて、あきらかに動揺し始めた浜を見ると息がつまった。



「…鉢屋先輩って、カノジョ居るんですか。」

「いや!いないぞ!あいつモテるのにな!もしかして、男の方が好きなのかもな!」



へらへら笑ながら冗談で済まそうとそんな事を言った自分が何よりも情けなかった。
そんなことで浜がそうなんですね、と納得するわけないのに。
俺のそんな答えを聞いて、悲しそうに2人を見る浜。
初めて見る浜のそんな表情に、はっと先日のことを思い出した。
名前が好きだといった浜を。
真剣に、まっすぐに、名前を思う浜を。
あんなにも、一途に名前を思っていた浜を。
今更そんなことを思い出しても、遅すぎるのに。



「浜…、」



浜が見つめる名前。
浜がずっと、恋をしている名前。
けど届かなくてもどかしくて毎日頭を悩ませてる名前。
思わずごめん…と声に出してしまいそうで。
でもそれを言ったらもっと浜が傷つくと思って
言えなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょっとこじれていくお話

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ