誰よりも好きです、好きです

□誰よりも好きです、好きです
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会える、きっと、会えるんだ


初めて会った、あの教室で、名前先輩に!




階段を上るたびに、胸の鼓動が早くなる。
だってこの階段を上がれば先輩に会えるんだ。
そう思うと疲れなんて感じなかったし、なんの変哲もない学校が明るく輝いてさえ見えた気がした。
話すなんて贅沢は言わないから、久し振りに先輩の姿だけでも見れればって思っていただけだったのに、それなのに。

同じ陸上部の竹谷先輩と話しながらも、目は思わず教室の中をチラチラと探していて
とうとう会いたくて会いたくてたまらなかった名前先輩を見つけたとき
予想に反して、俺の心はぎゅっと締め付けられた。



あれ、名前先輩に会えて嬉しいはずなのに、なんで。



一瞬どうしてこんな気持ちになるのか、自分でもよく分からなかったけれど
冷静になって、理由が分かった。
生まれて初めて、血の気がひいていくような感覚に襲われる。



だって、鉢屋先輩が。



生徒会に所属していて、優秀で、顔立ちも良くて、学校でも有名な鉢屋先輩が。
名前先輩の髪の毛を、真剣な顔で、とても大事そうに触っていて。
俺の想い人の名前先輩に、あんなにいとも簡単に触っていて。

たまたま前の席に名前先輩が座っていたから?
なんで、髪なんか結んであげてるんだろう。
2人はただのクラスメイトではないのだろうか。
だったら、2人は一体どんな関係なのだろうか。
名前先輩が嫌そうじゃなくて、鉢屋先輩を信頼して身を任せているように見えて、思わず手に力が入った。

見たくないのに、嫌なのに、その光景がこんなにもつらいのに。
何かの嘘であれと願ってどうしても見てしまう。
それでも、心が痛いくらいに締め付けられる感覚は消えない。

俺は名前先輩に触れもしてないのに、まだ話せてすらもないのに。

鉢屋先輩は、あんなにも簡単に触れる存在。



あ、俺って、こんなに、ちっぽけな存在なんだ。

先輩が遠い。

こんなにも、遠くにいるんだ。



「は、浜…、」




名前を呼ばれてハッと目の前の竹谷先輩を見て思わず、息が詰まった。
なんで何にも言ってくれないのだろう。
あんなに信頼して話したのに。
俺が可哀相だから、ずっと気を遣ってくれていたのかな。



「竹谷、センパイ、今日も、部活、よろしくお願いします…ッ」



目の前の竹谷先輩に向かって、必死絞り出した言葉。
一方的に言い捨てて、走って階段をかけ降りる。
さっきまであんなに晴れやかな気持ちだったのに、



みじめだ。



竹谷先輩も、雷蔵先輩も俺を可哀相なヤツだと笑っているのかな。
叶わない恋なのに、馬鹿なヤツだって思われたのかな。
思わず零れてしまいそうになった涙をぐっとこらえる
じわっと熱くなる目頭を押さえるけれど、こらえきれそうになかった。
あの光景が頭から離れなくて、思わず首を振る。




忘れろ、忘れろ、お願いだから、全部忘れろ




あ、俺、自分に、負けそうだ。






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切ないすれ違い

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